ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

生き物としてのウナギの全てが、この一冊に。「ウナギ 大回遊の謎」  

ウナギ 大回遊の謎
塚本 勝巳



2014年に絶滅危惧種に指定されたというのに、
未だに店頭にはウナギが並び、回転寿司ではウナギを食べる自分がいる。
これ程までに定着させるとは、恐ろしき平賀源内である。

そのニホンウナギ、長らく産卵場所は不明とされてきた。
河川を遡上して生息するほど身近なくせに、産卵は遠い大海原のどこか。
そのため、産卵後の成長に関する知見がなく、それが養殖の足枷でもあった。

だが、2006年、著者らのチームは、その産卵場所がマリアナ海嶺のスルガ海山付近であることを解明。
そして2009年には、ついに受精卵の採取に成功する。

本書は、こうした産卵場所を解明するまでのヒストリーを辿りながら、
ニホンウナギだけでなくヨーロッパウナギなど世界のウナギ全19種のウナギ類の研究を紐解きながら、
ニホンウナギなど一部の種で、生息地からは極めて遠い一地点が産卵場所となった経緯を明らかにしていく。
それは本書では「テーティス海仮説」として紹介されているが、
3000万年以上前の大陸移動を踏まえた壮大な説である。

このように、本書は漁業資源としてのウナギというより、
生物としてのウナギの長い進化史を見ていく本であり、
生物好き、進化史好きにはたまらない一冊となっている。

また、本書では冒頭、著者による回遊魚の研究が紹介されている。
そこでは、なぜ「回遊」という行動が誘発されるかや、
例えば同じ「回遊」でも、
・サケのように産卵のために海から川へ遡上する「遡河(そか)回遊」、
・ウナギのように産卵のために川から海へ下る「降河(こうか)回遊」、
・アユのように産卵とは無関係に海と川を行き来する「両側(りょうそく)回遊」
があるという基礎知識が紹介される。
こうした知識を得られるだけでも、魚類を見る目が変わってくるだろう。

著者らの研究により解明された事実は極めて多く、
ウナギの産卵場所はもとより、産卵時期、産卵する深度、水温など、
今後のウナギ保護には極めて重要な情報ばかりだ。

日本人のウナギ食の習慣が、
クジラ食ほど大規模に減少する(僕が子供の頃は、給食にも良く出ていた)とは思いにくいからこそ、
著者らの研究に寄せられる期待は大きい。

それにしても、ウナギ研究のターニングポイントとなるこの研究成果を、
この一冊で読むことができるというのは、幸せな話。
ウナギを食べるのが好きならば、ぜひ一読することをお勧めする。


ところで、土用の丑=ウナギという風習に加え、
最近は新たに台風=コロッケという風習が生まれつつある。
もちろんコロッケは絶滅しないが、10年後、20年後に、
どんな後付けの説明がなされるか、楽しみである。

【目次】
第1章 ウナギと出会う
第2章 ウナギの七不思議
第3章 産卵場を求めて
第4章 小型レプトセファルス
第5章 仮説
第6章 潜水艇
第7章 プレレプトセファルス
第8章 親ウナギ
第9章 卵
第10章 資源と保全
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DNAが示す進化の道筋。「シーラカンスは語る 化石とDNAから探る生命の進化」  

シーラカンスは語る 化石とDNAから探る生命の進化
大石 道夫



太古の生物が今も生きている。これほど魅力的な話があるだろうか。
実際のところは、生物としてのデザインが恐竜の時代やそれ時代から変化していない種は多い。
ただそれらとシーラカンスが異なっているのは、やはり「遥かな過去に絶滅した」と認識されていたためだろう。
(植物で同じ立ち位置にあるのが、メタセコイアである。)

時を飛び越えてきたかのような生物。それがシーラカンスだ。

さて、生物としてのシーラカンスについては、実は「シーラカンスの謎: 陸上生物の遺伝子を持つ魚 」(レビューはこちら)の方が詳しい。
なので、生物としてのシーラカンスに興味がある方は、そちらを読んでいただきたい。

一方、本書の特色は、2つ。
一つは、著者自身のコレクションによる多数のシーラカンスの仲間の化石写真も掲載しながら、
シーラカンスの進化と、魚類が陸上へ進出する道筋との関係を説明していること。

そしてもう一つは、こうしたシーラカンスの進化について、
生態的な観点よりも、特にDNA分析の結果を踏まえた進化史を考察している点だ。

木村資生氏のDNAの中立進化説を踏まえた進化の分岐時期推定はもちろん、
ホックス遺伝子群の転用によるマクロ進化(四肢など大規模な器官の進化)、
魚類としては突出して大きいゲノムDNA(約27億)の意味など、
様々な観点からシーラカンスの特徴が語られる。

ただ、陸上動物の進化史としては、肺魚からティクターリクへ進化したらしいとされているとおり、
シーラカンスは四肢動物のミッシングリンクにはなり得ない。

だがむしろ、様々な進化の選択肢が試されてきた中で、
シーラカンスという魚類→陸上動物という流れにおける全く別の到達点が、
今なお目にできるというのは、素晴らしいことだ。

しかし残念ながら、環境の激変を潜り抜けてきたシーラカンスも、
他の動植物と同様に、今は絶滅の危機に瀕している。

本書を通じて進化とDNAの妙を知れば知るほど、
現在が生命史上稀にみる大絶滅期となりつつある事実に驚愕する。
シーラカンスを初めとして、累々と続けられてきた進化の歴史を振り返れば、
やはりここ数百年の人間による環境改変は、「仕方がない」と見做し得るものではないだろう。

【目次】
第1章 生ける化石シーラカンス
プロローグ:生ける化石シーラカンスが見つかった
解けてきたシーラカンスの謎
生ける化石はシーラカンスだけか
化石からDNAが取り出せたら

第2章 生命の誕生
DNAからみた生命活動と進化
原初の生命体
生命の起源
三つの候補者
我々の祖先はただ一人
生物進化のゆりかご期――先カンブリア時代――に起こった出来事
コラム:生物の進化とゲノムの大きさ

第3章 生物の多様化とシーラカンスの出現
突然無数の生物が現れる――カンブリア紀の爆発――
生物の多様化がますます進むオルドヴィス紀とシルル紀
魚の時代、デヴォン期――シーラカンスが現れる――
ついに陸に上がった魚――移行動物チクターリクの発見――
生き残ったシーラカンスたち
シーラカンスのゲノムが解読された
コラム:遺伝的多様性と生物の絶滅

第4章 DNAから進化の謎を解く
進化の分子時計とはなにか
遺伝子は変わる
新しい遺伝子を獲得する
マクロ進化とは
ほかの生物のDNAを取り込む
コラム:遺伝子に起こった変化とその影響

第5章 恐竜滅亡後の世界
白亜紀末の生物の大絶滅
哺乳類の天下が訪れた
ヒトはどのようにして進化してきたのか
生物社会と進化論
コラム:第6の生物の大絶滅
エピローグ
あとがき
参考文献 註 釈




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この夏、金魚に出会いたくなる。「金魚はすごい (講談社+α新書)」  

金魚はすごい (講談社+α新書)
吉田 信行



夏と言えば金魚すくいである。
子供の頃採った金魚は、4~5年生きていた。
でも、最近採った金魚は、1年程度で死んでしまった。
採った時点の金魚の体調もあるし、僕の管理の問題、また夏季の気温上昇など、
様々な要因があるだろう。

でも、何にしても、「金魚すくい」という行為は、夏の思い出として一生残っている。

日本人とって、朝顔と金魚は「当たり前」の存在だが、それらについて知っている事実は、
かなり少ない。
まして、作出された様々な品種なんて、申し訳ないがマニアの世界とも感じる。
(まあ、そういうモノほど嵌まると楽しいのだが。)

本書は、江戸時代から創業している金魚屋、「金魚の吉田」の主人による金魚本。
「◯◯はすごい」の柳下のドジョウタイトル本ながら、
とても楽しい一冊である。
巻頭には各品種のカラー写真、また尾びれの違い、
主な品種の紹介・来歴など、まさに金魚入門書として最適といえる。

また、なんとなく最近金魚の品種が多いなと思っていたのだが、
日本では形質が固定されて(同形質の累代飼育が可能となって)初めて品種とするが、
中国ではF1のみでも品種とするとのこと(同じF1の雄雌を掛け合わせても、同形質のF2は得られない。)。
だから品種が乱立していたのかと、納得した次第である。

なお、以前「江戸創業金魚卸問屋の金魚のはなし」(レビューはこちら)を取り上げたが、こちらの店との関係が気になった。

調べたところ、著者の吉田信行氏が三男、先代の現「金魚の吉田」の社長・吉田舜亮氏は次男、
そして長男の吉田晴亮氏が「金魚坂」(吉田晴亮商店)を立ち上げたとのこと。
なるほど。

【目次】
第1章 金魚のルーツと歴史を探る
第2章 本当に金魚はすごい!
第3章 多種多様な金魚を愛でる
第4章 老舗が教える「金魚のススメ」



金魚はすごい (講談社+α新書)



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これほど美しい姿を知らなかったとは…。「トビウオの驚くべき世界」  

トビウオの驚くべき世界
スティーブ・N・G・ハウエル



トビウオと言うと、寿司ネタの「とびこ」とか、「あご」という別名が用いられる「あごだし」、「あごちくわ」など、
食材としての印象が強い(僕だけか?)。

このため、「透明で大きなヒレ(以降はあえて「羽」と呼びたい)をもった青魚」というイメージしかなかったのだが、
いや、これほど美しい生きものだったとは知らなかった。

本書は、バードウォッチング・ツアー会社の幹部が、海洋でのツアー中に出会ったトビウオを識別・記録したものかに始まった一冊である。
そのため、収録されている写真はほぼ全て生きた個体。大きな翼を広げ、海面を飛ぶ姿は魅力に溢れている。
生命に満ちた姿というか、本当のトビウオを全く知らなかったのだなと痛感した。

その美しさが、なぜ一般に知られていないのか。

トビウオは世界に60~70種程度、現在は7属に分類されている。
種によっては「スマーフ」と呼ばれる稚魚段階、未成魚、成魚の変化が大きく、同じ種とは思えない場合もある。
さらに、実はその羽には美しい模様やストライプがある。
つまり、種や齢によって、様々なバリエーションがあるのだ。
ところが死んでしまうとその色は失われ、さらに標本化の過程でも色素が失われる。
僕らは色褪せた個体しか見ていないし、また一般的図鑑も、こうした標本がベースとなっているため、
どうしてもその魅力は伝わらず、しかも種の識別は難しくなってしまう。

本書はその点は達観していて、実際に船上から見た特徴で呼称を決め(例えば羽がラズベリー色のは「ビッグ・ラズベリー」など)、この呼称で統一している。
そのため、帯にあるような「図鑑」という使い方は、一切できない。

だがその一方で、トビウオを「楽しむ」には、今のところこの方法がベストだろうと思う。
何しろ正式な図鑑の場合、色も形も(死ぬと羽の開き方も異なる)生きている時とは全く違うのだから、役に立たない。

さて、生きたトビウオについて初めて知ったのが、まず2枚羽と4枚羽があること(写真をいくつか見ていたはずなのに、意識していなかった)。

2枚羽は前羽(胸びれ)が発達、4枚羽は後羽(腹びれ)も大きい。
7種前後で、Exocoetus属(イダテントビウオ属)またはFodiator属に属している。
時速32~64kmで、15m以上の滑空が可能。滞空時間は2~3秒という。

一方、より飛行に適応したのが4枚羽だ。
4枚羽はHirundichtys属(ニノジトビウオ属)、Prognichthys属(ダルマトビウオ属)、Cheilopogon属(ツクシトビウオ属)、Cypselurus属(ハマトビウオ属)。
1回の飛行中、尾びれで水面を叩いて再滑翔するため、長く飛び続ける。
記録された最長飛距離(途中で再滑翔する)は600m。時速も70kmに達するという。
滞空時間の最長記録は、鹿児島沖合のフェリーで撮影されたもので、45秒とのこと。
まさに、「飛ぶ」という世界だ。

トビウオは陸地に近い沿岸部に多いというが、実際のところ、普通の生活をしていて飛翔に出会うのは有り得なさそうだ。
そうすると、僕らはいつまでも「あごだし」「とびこ」としてしか、この魅力あふれる生きものを知ることができない。

「何ともったいないことだ」と、そう思わせる魅力が、本書に詰まっている。

図鑑としては使えないけれども、実際のところ、図鑑が必要になるシチュエーションは、たぶんない。
だから、存分に本書で美しい姿を楽しんでほしい。

なお、本書でも紹介されているが、本書の元になったツアー時のトビウオ写真と照会が、ネット上で公開されている。
Offshore Wildlife
このうち、トビウオについては、このページA Working Guide to Flyingfish of the Western Pacific Odyssey.」に掲載されている。
(トップページ→articles→A Working Guide to Flyingfish of the Western Pacific Odyssey.のリンクは切れているため、辿れない。)

最下行のPDFが、写真資料。最初の1枚目の写真だけで、もうトビウオの美しさ全開である。
PacificOdysseySNGHetal..pdf

【目次】
01 トビウオはどんな生き物なのだろう?
02 トビウオに会える場所
03 トビウオの種類
04 トビウオの大きさ
05 トビウオはどうやって飛ぶのだろう?
06 トビウオはなぜ飛ぶのだろう?
07 トビウオの色
08 トビウオの見分け方
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ドキュメント 謎の海底サメ王国 (光文社新書)   

ドキュメント 謎の海底サメ王国 (光文社新書)
NHKスペシャル深海プロジェクト取材班+坂元 志歩



地球環境において、日本は特異的だなと思うときがある。
海に囲まれた島国であること。
そして、直近に深海が広がっていることだ。

さて、ダイオウイカについては、2013年に放映されたNHKスペシャル「世界初撮影! 深海の超巨大イカ」(NHKスペシャルのホームページはこちら)で、一気に火が付いた。

だがそれと同時期、深海のサメについても世界で稀有な撮影が行われ、
その成果がNHKスペシャル「謎の海底サメ王国」(NHKスペシャルのホームページはこちら)として放映されたことは、あまり知られていないのではないか。

少なくとも、僕は見逃していた。
番組表で見にしても、「たかがサメだから」と甘く思っていたのかもしれないが、
それが大失敗であったことを、本書で知った。

本書はNHKスペシャル「謎の海底サメ王国」の企画立ち上げから、放映後まで、その舞台裏を綴ったドキュメントである。

大蛇のようなシルエットのラブカ。映画エイリアンのようにアゴが飛び出すミツクリザメ。巨大な口のメガマウスザメ。
深海に棲むゆえに、生態もよく分かっていないこれらの生きた姿、捕食シーンを撮影する、不可能とも思えるプロジェクト。
それを決意させ、可能にしたのは、いくつかの条件が、奇跡のように絡み合ったためだ。

世界でも有数の、沿岸から急激に深海へと深く落ち込む相模湾。
漁を通じて、研究者以上に深海ザメの生態・生息状況を熟知していた地元漁師の存在。
その漁師に、「NHKスペシャル 幻のサメを探せ ~秘境 東京海底谷~」(NHKスペシャルのホームページはこちら)を企画した高野氏が、出会ったこと。

さらにこのタイミングで、クジラの冷凍遺体を深海に沈め、それを継続観察するというプロジェクトが具体化し、
そして、ダイオウイカの撮影でも力を発揮した、広視界の潜水艇が導入される。
(実のところ、広視界の潜水艇を用いたのはこの深海ザメプロジェクトが先で、この時に多くのトラブルをクリアしたおかげで、ダイオウイカの撮影がスムーズに進んだようだ。)

この成果である映像を見逃すとは、もったいないことをしたものだ。
DVDやNHKオンデマンドで配信しているので、いずれ見たい。

さて、本書でも出てきた、「クジラの冷凍遺体を深海に沈め、それを継続観察するというプロジェクト」。この番組でもキーの一つとなるプロジェクトだが、この成果については、「深海 鯨が誘うもうひとつの世界」(レビューはこちら)で美しい映像により紹介されている。本書は、「深海 鯨が誘うもうひとつの世界」をより楽しむためにも有用である。

【目次】
口絵
プロローグ
第一章 海底王国への冒険のはじまり――東京海底谷と「悪魔のミツクリザメ」
第二章 深海プロジェクト始動――メガマウスを狙え!
第三章 撮影機材の改良、漁師の凄さ
第四章 深海ザメとは何か
第五章 深海プロジェクトの凍結
第六章 世界初のクジラ大実験
第七章 クジラが見つからない!
第八章 ラブカの発見
第九章 相模湾で起きていた奇跡
第一〇章 深海の生物移動の謎を解く
第一一章 2013年 奇跡 再び
エピローグ――海底王国 冒険の終わりとはじまり
あとがき 結城仁夫






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