ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

植物は、したたかだ。「植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし」  

植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)
稲垣 栄洋



以前に、こう書いた(「樹木ハカセになろう (岩波ジュニア新書)レビューはこちら)l。

堀辰雄の作品に、確か「フローラとファウナ」というのがある。
作家は「フローラ」(動物的)と「ファウナ」(植物的)に分けられる、というのがベースの内容だったと記憶しているが、自然愛好者にも「フローラとファウナ」があるのではないか。


僕はどうしても植物が苦手だが、その原因はおそらく、個体の多様性にあると思う。
芽生えから老樹に至るまで、同種であっても姿・形が異なる。
同じ樹齢であっても、生息場所によって異なる。
もちろん樹であれば樹皮、葉、花などから識別可能だとは分かっているが、
「この樹」と「あの樹」の共通点を見出すことに、慣れていない。

この「個体の多様性」、本書では「可塑性」と定義している。

そして植物は、「固着性」と「可塑性」が生き方のポイントであり、
それゆえに、花粉と種子というたった2つの移動可能な時期において、
いかに進化してきたか、ということが示される。

また、面白いのは、植物の進化史だ。
裸子植物→被子植物において、花粉と種子の移動性が抜群に高まった(ほぼ風媒だったのが、生物媒介が増加した)とともに、
巨大化による形成層という構造の発達。
また、導管による効率的な水の輸送システムが発達した。
(古いタイプの植物の裸子植物は、導管(水柱となっている)が発達しておらず、
仮導管(細胞間に小さな穴が空いている)で水を運ぶ。)

ところが導管は、管内の水が途切れると、水を吸い上げられないという欠点がある。
このため、凍結→解凍により気泡が生じ、導管の連絡が途切れやすい寒い地域では被子植物は不利であり、
仮導管を持つ裸子植物(針葉樹)が優勢となる。

もちろん、前述の花粉・種子を媒介する生物が少ないというのもあるだろうが、
植物の分布について、進化史的視点が得られるのは楽しい。

また木から草が進化したことは知っていたが、
双子葉類から単子葉類が進化したという順番は知らなかった。

すなわち単子葉類とは、形成層(大きくなるために必要な構造)をなくし、巨大化を避け、
代わりに草として成長するためのスピードの増加を優先させた植物だ。

そのため、根元から茎をのばさず、すぐに葉。
花を咲かせるときだけ茎をのばす。
根も、主根・側根を作らず、全て同一のひげ根。

その徹底したシステムが、イネの枝分かれである「分げつ」であると知れば、
田圃を見るのもたのしい。
(「分げつ」が単子葉類ならではの増え方であることは、本書を読まれたい。)

さらに、二酸化炭素を効率的に光合成するC4植物。トウモロコシなどが該当するが、
なぜこれが植物において優勢になっていないのか、漠然とした疑問だった。
(通常のC3植物が90%を占める。)
本書によれば、C4植物がその効果を発揮するのは、
十分な気温と光がある環境のみであり、それらが欠けるとむしろ非効率になるという。
なるぼど、地球上では一部の地域を除き、
十分な気温と光がある環境なんて、なかなか無い。

植物の識別には役立たないが、
生物進化は共進化の歴史でもある故、動物を知るためには植物を知らなければならない。
本書はその一助となるだろう。

【目次】
第1章 植物はどうして動かないのか?―弱くて強い植物という生き方
第2章 植物という生き物はどのように生まれたのか?―弱くて強い植物の進化
第3章 どうして恐竜は滅んだのか?―弱くて強い花の誕生
第4章 植物は食べられ放題なのか?―弱くて強い植物の防衛戦略
第5章 生物にとって「強さ」とは何か?―弱くて強い植物のニッチ戦略
第6章 植物は乾燥にどう打ち克つか?―弱くて強いサボテンの話
第7章 雑草は本当にたくましいのか?―弱くて強い雑草の話
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不思議な植物に出会いたい。「森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界」  

森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界
塚谷 裕一



腐生植物、といっても正直、何のことか分からなかった。

植物といえば、葉緑素を持ち、光合成を行う生きもの。
だが中には、葉緑素を失い、他者から栄養を奪うことで生育する植物がある。

「葉緑素が無い」というと、キノコ等の菌類かなと思うが、菌類ではない。
歴とした植物なのだ。そして、栄養源を奪う相手が、菌類なのである。

そうした独特の生き様を持つ植物を、総じて「腐生植物」と言う。
特定の科に限定するわけではなく(ある科全てが腐生植物というのは有る)、様々な科に、こうした種が存在している。
被子植物だけでも520種以上(10科以上)というから、知らないだけでかなり普遍的な生き方なのだろう。
一般的な植物と菌類の間というか、本当に生物というのは、あの手この手を使ってニッチを見いだすものである。

さて、この腐生植物、かなり発見することが難しいという。
というのも、葉緑素を持たず、光合成を行う必要がないため、葉を持つ必要が無い。
そのため多くの場合、花をつけ、種子を散布するまでの時期のみ、地上部で見いだされるのだ。
そしてその開花期間は、かなり短い。

また、色が独特。
有名なギンリョウソウ、幽霊茸という別名があるが、葉緑素を持たず真白である。
かと思えば赤や黄色などがあって、ちょっと「植物」という眼で見ると見過ごしそうである。

形も独特。タヌキノショクダイなんて、何がどうなっているのか分からない。
森で見たら、たぶんキノコと思って見過ごしそうだ。
(タヌキノショクダイは、徳島県那賀町で記録が有る。那賀町観光協会がflickerに画像をアップしているので、
ご覧いただきたい。)

さらに、大まかに言うと腐葉土が多く、菌類が豊かな土地にのみ発生するため、
その出現場所が限定される。しかも小さかったり、同じ場所でも連続しての発生は難しいという。

フィールドに多く出る者でも、恐らく菌類や、ごく小さな土壌生物を追っているような人くらいしか、
遭遇する機会すらないのではないだろうか。

本書はそうした腐生植物を専門とする著者が、腐生植物の生活史、
また日本各地・世界各国における腐生植物の発見状況等、フィールド体験を、多くのカラー写真と共に紹介するもの。

上記のとおり、通常の生活の中で腐生植物を見つけることは極めて難しいだろうから、
本書でその多様な姿を見られるだけでも、なかなか得難い経験である。

腐生植物のひとつであるツチアケビは、種子散布は鳥類によるという。
その真っ赤で多肉質の果実が、ヒヨドリやシロハラに好まれるようだ。
留鳥のヒヨドリ、冬鳥のシロハラは野鳥の中では個体数も多い普通種だし、
そのためかツチアケビは、腐生植物としては割とよく見られる種という。いつか巡り合いたいものだ。

腐生植物は、まだまだ新種が見出される可能性が高く、日本国内においても、その産地に空白地帯が多いようだ。
知らなければ、探しようもない。
本書により腐生植物の存在を知れば、これからの森歩きの愉しみが一つ増えるだろう。
そしていつか出会い、その幸せを噛みしめたいものである。

【目次】
1 腐生植物のことはじめ
2 腐生植物のくらし
3 腐生植物は新種の宝庫
4 腐生植物の探しかた
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道端のコケに、話しかけてみたい。「苔の話―小さな植物の知られざる生態」  

苔の話―小さな植物の知られざる生態
秋山 弘之



野鳥に慣れてくると、街中もフィールドとなる。
街路樹くらいしかない舗装路でも、季節によればカラ類が飛来しているし、歩道脇のセイヨウツゲなどには冬にウグイスが入っていることすらある。
見上げればトビ、カラス類も通過するし、場所によればサギ類・カワウなども通過するだろう。
そんな野鳥とともに、どこにでもある生物が、コケだ。

これまでも、「苔とあるく」(レビューはこちら)や「コケの謎―ゲッチョ先生、コケを食う」(レビューはこちら)などを紹介している。

これらの本の中で、コケに興味を持つ人への基本的な一冊として紹介されているのが、本書である。
コケ植物の基本的な分類から始まり、様々なコケが持つ環境への適応力、
そして分布の特異性、日本文学での扱われ方などが紹介される。
さらに巻末には図鑑活用術、代表的な苔20選、苔庭ガイド、参考文献など、
これからコケを見ていこうという人の参考になる情報が掲載されている。
なるほど一冊の新書ながら、これだけで非常に多岐にわたるコケ知識が得られるだろう。

例えば、コケ植物は高等植物と比べて、隔離分布や広域分布する種が多いという。
隔離分布については、本当にそうなっている場合と、そもそも研究者が少ないとか見つけにくいとかの理由で、実際には分布していても発見されていないだけ、ということも有り得る。
ただ、コケ植物は「根」が無く個体そのものが小さいこと、そして胞子はさらに小さく軽いことから、鳥類や風による長距離散布が起こりやすいようだ。

また鳥といえば、コケを巣材に用いる野鳥も多い。
オオルリやカワガラスなんて、巣材がほぼ全てコケである。
こういう渓流の野鳥が巣材に用いるのはまあ納得できるが、
カラ類の産座に、コケ類の特定の一部(名前はよく分からない)が使われているのも見た事がある(よくあることだ)。

しかし、コケ類の「特定の一部」だけを集めるなんて大変な労力だろうから、
相当積極的な意味があると思うのだが、その理由が長らく分からなかった。

それに対して、本書では2点の理由が示唆されている。
まず、そもそもコケ類の特定の一部(本書によると、胞子体や菌糸束とのことだ)は、それほど珍しくないということ。
特定の環境を好むコケならかなり密生するし、これらの部位そのものも何十本も群生するため、逆に集めやすいという。

また、コケは抗菌作用があるという点。確かに湿り気のある場所に多く生えるが、コケ自身にはカビが生えにくい。
カビ防止まで意識しているかはわからないが、結果的に産座の衛生確保には役立っているのだろう。

こうした点等について、本書では小海途銀次郎氏の鳥の巣コレクションを題材として語られている。
小海途氏のコレクションは非常に資料性が高く、より詳しく知りたい方には
日本鳥の巣図鑑―小海途銀次郎コレクション (大阪市立自然史博物館叢書)」をお勧めする。
本ブログ開始前に入手しているためレビューはしていないが、
写真と詳しい解説が満載の、野鳥の巣に関する資料としては一級の本である。
なお、もちろん野鳥・雛・卵を勝手に捕獲・殺傷することは違法行為なので注意されたいが、
フィールドで野鳥の古巣、羽根、卵のかけらを見つけることもあるだろう。
その際に使える図鑑については、こちらの記事に紹介しているので参考にされたい。

さて、この他本書では、焚火跡のみに発生するヒョウタンゴケや、高濃度の銅が含まれる土壌に発生するホンモンジゴケ、窒素分を好むヤワラゼニゴケなど、特定の環境のみに生息するコケなども紹介されており、
「見てみたい」と思わせる話題が満載である。

コケに興味があるが、そもそもコケって何?という方に対して、総括的な知識を提供してくれる一冊。
新書かくあるべしという本である。

【目次】
第1章 コケ学事始め
第2章 おそるべき環境適応能力
第3章 苔はこんなに役に立つ
第4章 苔に親しむ

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苔とあるく  

苔とあるく
蟲文庫店主 田中美穂



コケについての本を読もうと思って以降、長らく楽しみにしていた本を入手。

フィールドワーカーがコケに嵌っていく疑似体験として、
コケの謎―ゲッチョ先生、コケを食う」(レビューはこちら)を紹介した。
ゲッチョ先生はゲッチョ先生で十分楽しめるのだが、入門書ではないため、
それを読んでフィールドでコケ探索ができるかというと、ちょっと無理である。
また、多数のスケッチはあるものの、写真ではない。

一方、本書は、徹底してコケの楽しみを伝えよう! という愛情に溢れている。
多くのカラー写真、観察の仕方、採集方法、整理方法、著者の使用している顕微鏡類。
またコケの栽培、コケの本、コケを通じた交流まで。

いわば、「苔と(人生を)あるく」という本だ。

カラー写真・イラストページと説明ページが交互に現れ、飽きることもない。

身近なフィールドを満喫したいと思っている方に、最初に読むべきコケの本として、まずお勧めしたい一冊である。

なお、もし本屋(古本屋)で見つけたら、カバーを外してその裏側を見ていただきたい。
キュートな写真が潜んでいる。

【目次】
1 探索
2 観察
3 研究
4 採集
5 整理
6 啓蒙
7 実用
8 遠征
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category: 植物

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コケの謎―ゲッチョ先生、コケを食う  

コケの謎―ゲッチョ先生、コケを食う
盛口 満



フィールドを歩いていると、様々な生きものが気になってくる。
なかなか手を出す機会がないものの、
調べたくなった時のために、図鑑だけは購入している動植物群がいくつかある。
特定種に拘らない生きもの屋だとありがちな習性である。

僕の場合は、シダ、コケ、クモ。
鳥を探してフィールドに出ると、移動中にこれらに出会う機会が多い。
だが、最初の一歩がなかなか踏み出せないままでいる。

ただ、その「一歩」を踏み出せば、新しい世界が開けるはずだ。
それを疑似体験させてくれるのが、盛口満氏の諸本であろう。

特に盛口氏の場合、気にはなるけど手は出しにくい分野が多いのが、嬉しい。
ゲッチョ先生のナメクジ探検記」(レビューはこちら)では、ナメクジ。
雨の日は森へ―照葉樹林の奇怪な生き物」(レビューはこちら)では、冬虫夏草への扉を開いてくれた。

そして本書は、タイトルどおり「コケ」である。
コケが少し気になりつつ、でも一歩を踏み出す気にならなかった盛口氏が、
ふとしたはずみでコケの世界へ足を踏み出し、様々な発見や驚きを綴っていく。

・ギンゴケは世界的広域種であり、街中にも南極にも生息していること。
・コケには雄株と雌株が別株のコケがあるが、同時にで無性芽でも増加できるものもあり、
 それが分布拡大に効果的となっていること。
・教科書でよく聞くゼニゴケにも雄株と雌株があるが、10cm以内にないと受精できないため、
 多くは無性芽で増加していること。
・日本の蘚苔類は、蘚綱 約1030種、苔綱 約620種、ツノゴケ綱 17種で、約1600種であること。

我が家の裏庭にもスギゴケらしいものが生えているが、
今後は道端のコケにも注目である。新しい視点が得られる一冊。

【目次】
1 コケ屋という病にかかる
2 コケって何?
3 そうだ、京都へ
4 南の島の不思議な事情
5 東京でコケ探検
6 そして、それは持病になった


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