ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ベランダ―の生き様を見よ。「ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)」  

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)
いとう せいこう



俺たちは都会の狭い空を見ながら、必ずあちらこちらのべランダに目を向け、そこで営まれるボタニカル・ライフを把握する。鳥には鳥の世界があり、虫には虫の視界かあるように、俺たちべランダーには俺たちだけの空間が存在している。

家庭菜園ではない。ガーデニングとも異なる。
庭のない都会で、自宅のベランダで可能な限り植物生活を楽しむこと。それがベランダーだ。

本書は、ベランダーたるいとうせいこう氏の、
1996年10月から1999年12月までの愛と葛藤のベランダ生活の記録である。

何が葛藤なのか。

菜園やガーデニングとベランダーとの最も異なる点は、
植物が土地に根を張っていないことだろう。
それぞれの植物は、それぞれの鉢で完結している。

だからこそ、鉢を好きなように移動でき、
僅かな隙間に鉢さえ入れば、何がしかの植物を育てることができる。

だからこそ多種多様な植物を育てることが可能なのだが、
多種多様な植物は、本来、多種多様な環境に根付くものだ。

だが、ベランダーには鉢しかない。

思いがけず成長する植物もあれば、日々枯れていく植物もある。
鉢という限界を突破して成長しようとする植物もあれば、
植物すらなくなり、土だけになった鉢もある。

これらを日々観察し、世話し、愛で、そして悩むのがベランダーである。

本書で取り上げられる植物は、様々だ。
クレソン、オンシジウム、サボテン、ニチニチソウ、
モミジ、オンシジウム、シクラメン、コーヒー、芙蓉などなど。

いとうせいこう氏が、それぞれの植物に抱く想い。
そして、それに対する植物の生と死。

植物を育てることの難しさももちろん有るのだが、
それをも含んで、
ボタニカル・ライフの楽しさを、いとうせいこう氏は綴る。

自分とその植物の間に深い関係が築ければ、それだけで良い。

ベランダという狭い世界で繰り広げられる、熱い闘いと言っても良い。
本書は植物生活を楽しむ、又は楽しもうとしている人が、
その苦楽を噛みしめながら読める稀有の一冊である。
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植物と昆虫の、ダイナミックな共生を観る。「地球200周!ふしぎ植物探検記 (PHPサイエンス・ワールド新書)」  

地球200周!ふしぎ植物探検記 (PHPサイエンス・ワールド新書)
山口 進


…本書の執筆を機に陸路、海路まで含めて概算したところ、地球を約二〇〇周という答えが出てきた。
…つまり二〇〇周のうちの大半は単に探索と観察に費やされたのだ。
…しかし今振り返ってみると、この無駄の繰り返しがいかに重要であったかが身にしみてわかる。無駄のように感じる時間を過ごしてこそ、独自の視点が生み出されるのだ。



どうも今は使っていない学校もあるようだが、
かつては小学校のノートといえば、「ジャポニカ学習帳」(ショウワノート)の独壇場だった。
そして、勉強に集中できない僕は、教科書に落書きするか、ジャポニカ学習帳の表紙の珍妙な生きものや植物を見て、不可思議な空想に耽っていたものである。

このジャポニカ学習帳の表紙、「世界特写シリーズ」は、1978年以来、本書の著者山口進氏が担ってきたものだ。
昨今の美麗な写真と比較すると、さほど「美しい」ものではない。
だが思い起こせば、それらは全て、その生きている姿をありのままに伝えてくれるものだったと思う。

その旅のうち昆虫に関する話題については、「〈オールカラー版〉 珍奇な昆虫 (光文社新書)」(レビューはこちら)で詳しく紹介されているが、
本書は植物を中心にしたもの。
地球200周分の撮影旅行を行ってきた中から、
特に著者が惹かれた「ふしぎな植物」について、
その撮影に至るまでの旅行記、実際に見つけるまでの苦労、
そして発見してからの観察記録と気付き・驚きが綴られている。

撮影の苦労も確かにあるのだが、著者は「見つけたら撮影」というスタンスではなく、
開花する前の個体を見つけ、それを24時間観察できるベースを近くに作り、
そこでじっくりと狙った植物の開花を追う。
その過程でもちろん撮影もなされるのだが、それよりも本書で伝えられるのは、
じっくり観察することで初めて得られる発見の数々だ。

特に著者は、植物と他の生物との共生・共進化という観点をテーマにしており、
本書で取り上げられた様々な植物でも、
その花粉を媒介する生き物は何か、
そしてそのために植物はどのような特殊な進化を遂げているかを詳しく見ていく。

世界一大きな花、ショクダイオオコンニャクでは、その開花しきった時に立ち上る、
もうもうたる湯気。
温度計ではこの時、花穂は摂氏39℃にもなるというが、
この湯気こそ強烈な腐敗臭を遠方にまで行きわたらせる秘密であり、
これによって花粉を媒介するアカモンオオモモドシデムシが引き寄せられるという。
この臭いは約3時間で弱くなってしまうので、
これなどは開花をリアルタイムで見なければ実感できない状況なのだ。

そしてその瞬間をじっくり観察するからこそ、花粉媒介者であるシデムシの動きも観察できる。

またその経験があればこそ、
他の夜間に開花する植物は同様に発熱により臭いを拡散するものが多く、
それゆえに花の寿命が短いのだろう、という類推が成立する。

こうした視点と理解はほんの一例で、
本書ではこうした視点から、多数の不可思議な植物の魅力が紹介されている。
また同時に、それぞれの植物の原記載にあたった当時の博物学者の物語なども挿入されており、
博物学的な視点からも楽しめるようになっている。

山口氏の著作は、間違いなく昨今の生物学ブームのおかげで世に出たものだろうが、
こうした長い経歴と独自の視点を持つ人の観察記録が読めるのは、本当にありがたい話だ。

【目次】
世界一大きな花
巨大花ラフレシア
ハチと交尾するラン
土のなかで咲くラン
もっとも巧みな送粉術―中南米のバケツラン
どう見てもキノコにしか見えない花
アンコールワットの絞め殺しの木
「奇想天外」という名の植物
水上の覇者オオオニバス
世界一乾燥した大地の花
アリ植物
中国の青いケシ―雨傘植物との出会い


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植物から、夢を育てる。 「プラントハンター西畠清順 人の心に植物を植える: 地球を活け花する」  

プラントハンター西畠清順 人の心に植物を植える: 地球を活け花する (小学館クリエイティブ単行本)
NHK取材班


見ているだけで元気を貰える人というのがいる。
もちろん人である以上、様々な長所・欠点はつきものだ。
だがそれでも、ある分野にひたむきであり、
そして常に夢を持っている人、前を向いている歩いている人を見ると、
自分も頑張らなきゃなと思う。

そのような人の一人が、おそらく本書で取り上げられているプラントハンター、西畠清順氏だろう。

一頃、NHKその他様々な媒体でも取り上げられたが、西畠氏は植物の卸問屋、(株)花宇の五代目。
産地も時期も限られる様々な植物を、その時々の人々の求めに応じて卸すという作業は、
ちょっと考えても難しい。
日本各地の植物を知り、それぞれの生活サイクルを調整しなければ、
「望む時期に欲しい植物を」なんて困難である。

だがそれを、西畠氏は世界スケールで行っている。

本書はNHKスペシャル「地球を活け花する~プラントハンター 世界を行く~」のノベライズ。
多数のカラー写真と、番組の舞台裏も併せてとても楽しい一冊となっている。
西畠氏の活動・生き様を通して紹介するとともに、
大きなブロジェクトとして、アルゼンチンに生えるビール腹の樹木・パラボラッチョや、
スペインのオリーブの巨木の輸入プロジェクトが収録されている。

「プラントハンター」と言うと、「珍しい植物を採り、高値で売る」というイメージがあるが、
そうしたワイルドなやり方が通用する時代ではない。

各国で採集が許可されたエリアで、最も相応しい樹を見つける。
そして輸出入国それぞれの法的手続や防疫処理をクリアし、やっと日本に持ち込める。
それだけでも相当額の費用を要するが、それでも「売れる」かどうかは分からない。

だが西畠氏は、それぞれの樹に潜む、
人々の心を動かすだろう可能性を信じ、日本へ連れてくるのだ。
そうして紹介される様々な植物は、なるほどダイナミックであり、圧倒的な迫力を持つ。

その活動は、現在「そら植物園」というプロジェクトとなっている。
外来種問題もあるものの、
「園芸大国」である日本においては、街路樹や庭園の彩りはやはりワクワクするもの。

その植物に人生を捧げている西畠氏の魅力を凝縮した一冊。
夢を与える本だ。

【目次】
プロローグ
1 1年間に地球10周 魅惑の植物を求めて
2 150年続く植物卸問屋「花宇」
3 いざ!アルゼンチンへ
4 日本の伝統文化 活け花に原点あり
5 オリーブの古木を日本の街づくりに
6 パラボラッチョがやってきた
エピローグ

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人と街と植物の歴史。「プランツ・ウォーク 東京道草ガイド」  

プランツ・ウォーク 東京道草ガイド
いとう せいこう,柳生 真吾



「植物屋」(虫屋、鳥屋という専門愛好家という意味で用いている)と「園芸」はイコールではない。
自然界には自然種として、多種多様な植物が存在し、
それらにはそれらの生態と生物界での役割がある。
植物屋は、現地でその植物を見て、それを知ることが喜びだろう。

一方、園芸はそれらの植物の一部を、人々の生活の中に導入する技術だ。
そこにはいかに育てるかというベースの上に、
いかに改良していくか、どのように愛でるかという視点の問題がある。

双方を兼ねることはなかなか難しいが、
少なくとも至る所に植物が在る日本では、植物屋よりも園芸の方が人々に好まれてきた。

本書はいとうせいこう氏と柳生真吾氏が、
東京の各所を歩きながら、その土地土地の園芸を見て回るもの。

園芸が人々の生活に密着している故に、
それを辿る旅は、その土地に生活する人々を辿る旅でもある。
歴史、嗜好、習慣。
普通なら見過ごすような園芸から、二人は様々な風景を見つけ出す。

各章ごとに、地図(二人が歩いたコースも図示されている)と有名スポットの概要が付されており、
東京住まいの方であれば、本書片手に追体験することも楽しいだろう。

また東京以外に住む人々は、本書をヒントとして、
自身の町を歩いてみることも楽しいかもしれない。

それにしても、園芸界の語り部であった柳生真吾氏が早世したのは、
何とも残念である。まだまだ「園芸の喜び」を教えてほしかった。

なお、いとうせいこうし氏には別にベランダ―(ベランダ園芸家)としての日々を綴った「ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫) 」がある。
レビューはいずれ。

【目次】
押上―新名所の足下に広がるゲリラ園芸
駒込―日本の心、ソメイヨシノのルーツを追って
六本木―最先端スポットの古層をたどる
外濠公園―江戸城の史蹟は深い森
上野―元祖テーマパークはハスの楽園
根津―下町の空き地は少年時代の原風景
表参道―最長老のケヤキはどこにいる?
明治神宮―鎮守の森は永遠を目指した人工林
下井草―住宅街の人情手ゼリ花市場
石神井―水辺の天然記念物とメタセコイアの森へ 等



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植物は、したたかだ。「植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし」  

植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)
稲垣 栄洋



以前に、こう書いた(「樹木ハカセになろう (岩波ジュニア新書)レビューはこちら)l。

堀辰雄の作品に、確か「フローラとファウナ」というのがある。
作家は「フローラ」(動物的)と「ファウナ」(植物的)に分けられる、というのがベースの内容だったと記憶しているが、自然愛好者にも「フローラとファウナ」があるのではないか。


僕はどうしても植物が苦手だが、その原因はおそらく、個体の多様性にあると思う。
芽生えから老樹に至るまで、同種であっても姿・形が異なる。
同じ樹齢であっても、生息場所によって異なる。
もちろん樹であれば樹皮、葉、花などから識別可能だとは分かっているが、
「この樹」と「あの樹」の共通点を見出すことに、慣れていない。

この「個体の多様性」、本書では「可塑性」と定義している。

そして植物は、「固着性」と「可塑性」が生き方のポイントであり、
それゆえに、花粉と種子というたった2つの移動可能な時期において、
いかに進化してきたか、ということが示される。

また、面白いのは、植物の進化史だ。
裸子植物→被子植物において、花粉と種子の移動性が抜群に高まった(ほぼ風媒だったのが、生物媒介が増加した)とともに、
巨大化による形成層という構造の発達。
また、導管による効率的な水の輸送システムが発達した。
(古いタイプの植物の裸子植物は、導管(水柱となっている)が発達しておらず、
仮導管(細胞間に小さな穴が空いている)で水を運ぶ。)

ところが導管は、管内の水が途切れると、水を吸い上げられないという欠点がある。
このため、凍結→解凍により気泡が生じ、導管の連絡が途切れやすい寒い地域では被子植物は不利であり、
仮導管を持つ裸子植物(針葉樹)が優勢となる。

もちろん、前述の花粉・種子を媒介する生物が少ないというのもあるだろうが、
植物の分布について、進化史的視点が得られるのは楽しい。

また木から草が進化したことは知っていたが、
双子葉類から単子葉類が進化したという順番は知らなかった。

すなわち単子葉類とは、形成層(大きくなるために必要な構造)をなくし、巨大化を避け、
代わりに草として成長するためのスピードの増加を優先させた植物だ。

そのため、根元から茎をのばさず、すぐに葉。
花を咲かせるときだけ茎をのばす。
根も、主根・側根を作らず、全て同一のひげ根。

その徹底したシステムが、イネの枝分かれである「分げつ」であると知れば、
田圃を見るのもたのしい。
(「分げつ」が単子葉類ならではの増え方であることは、本書を読まれたい。)

さらに、二酸化炭素を効率的に光合成するC4植物。トウモロコシなどが該当するが、
なぜこれが植物において優勢になっていないのか、漠然とした疑問だった。
(通常のC3植物が90%を占める。)
本書によれば、C4植物がその効果を発揮するのは、
十分な気温と光がある環境のみであり、それらが欠けるとむしろ非効率になるという。
なるぼど、地球上では一部の地域を除き、
十分な気温と光がある環境なんて、なかなか無い。

植物の識別には役立たないが、
生物進化は共進化の歴史でもある故、動物を知るためには植物を知らなければならない。
本書はその一助となるだろう。

【目次】
第1章 植物はどうして動かないのか?―弱くて強い植物という生き方
第2章 植物という生き物はどのように生まれたのか?―弱くて強い植物の進化
第3章 どうして恐竜は滅んだのか?―弱くて強い花の誕生
第4章 植物は食べられ放題なのか?―弱くて強い植物の防衛戦略
第5章 生物にとって「強さ」とは何か?―弱くて強い植物のニッチ戦略
第6章 植物は乾燥にどう打ち克つか?―弱くて強いサボテンの話
第7章 雑草は本当にたくましいのか?―弱くて強い雑草の話
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