ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

好奇心こそ、全ての源。「書斎のナチュラリスト (岩波新書)」  

書斎のナチュラリスト (岩波新書)
奥本 大三郎



奥本大三郎氏は、フランス文学者にして、虫屋。
その知識と経験を踏まえたエッセイが何冊が刊行されており、本書もその一冊。
とはいえ、本書では昆虫関係の話題は少なく、日々の生活の話題が多い。
一編一編もさほど長くはなく、短時間ごとに読み進めるのも良い。
そういう気軽な一冊と思っていたが、後半はちょっと趣が違った。

2編のとても興味深い話題が展開される。
まず1編は、芥川龍之介の「河童図」について。
芥川龍之介の遺墨として有名で、誰しも何処かで見た事があるのではないだろうか。

この河童図を芥川が描くようになった経緯。
画家の小穴隆一と共に散策している時に、芥川が日々の落書きの一つとして見せたのが、
河童図のはしりらしい。
当初は河童は2匹いて、
樵(きこり)と漁師が問答をする中国画「漁樵問答」のテーマを河童で描くのが目的だったようだ。
ところがそれがいつしか一人になり、
手には何も持たなくなっていく。
こうした河童図の変遷が、実は死に向かいゆく芥川の意識変化を反映しているのではないかという話だ。

そしてもう一つは、夏目漱石の「草枕」で描かれた、硯の話。
草枕の内の描写から、その硯の形・姿を描いてみて、
「端渓硯」の専門家の説も踏まえながら、、どこのいつの時代の硯かを想像する。

ところがこの記事を公表すると、読者から別の推測が提示される。
慌てて専門家に確認し、また色々推測していると、
実はその「草枕の硯」のモデルとなった硯が実在する、という情報が入る。
そしてついに、その硯を所有する人物に辿り付き、秘蔵の硯を見せてもらうのだ。
本書には、その写真も掲載されている。
それは実際に見て頂きたいのだが、
いやはや、「草枕の硯」がこのような「異形の硯」であったとは驚きであった。


【目次】





















「草枕の硯」
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73編の独自の視点。「渡る世間は「数字」だらけ (講談社文庫)」  

渡る世間は「数字」だらけ (講談社文庫)
向井 万起男



エッセイの醍醐味は、自分には無い経験、視点、思考などを体験することにあるだろう。

そうした面で最も切れ味が鋭く、多くの支持を得ているのが、推理作家でもある森博嗣氏。
(例えば、「科学的とはどういう意味か (幻冬舎新書)」(レビューはこちら)。)

またこれまで読んだ中では、須藤 靖氏の著書も同様な独特さがあった。
(例えば「三日月とクロワッサン」(レビューはこちら)。)

本書著者の向井万起男氏は、宇宙飛行士である向井千秋氏の夫として、
その独特の風貌で話題となった。
そして、その「宇宙飛行士の夫」という珍しいスタンスからのエッセイ、
君について行こう―女房は宇宙をめざした」(レビューはこちら)はベストセラーとなり、
続編として「女房が宇宙を飛んだ」(レビューはこちら)も刊行された。

こうした点から、僕自身が執筆者としてはイロモノ的印象を受けていたのだが、
上記2冊を読めば分かるが、上質のエッセイストである。

飄々とした語り口、大リーグと宇宙飛行士マニア、そしてアメリカ文化に対する探究心。
そして、実際に自身で調査、確認し、独自の結論を導く明快さ。
前述の著者らと同様に、安心してエッセイを楽しめる一人である。

さて、本書は上記のような「宇宙飛行士の夫」という立場ではなく、
向井自身が気になった「数字」をテーマとしたエッセイを集めたもの。
一般的な厚さの文庫本に73編のエッセイを収録していることから分かるとおり、
各章はかなり短い。
それだけに、「ふとした思い付き」に端を発するものも少ないが、
それだけに日常で自分が見過ごしている「数字」の面白さを見せてくれる。

例えば、国際電話の「国番号」(日本だと「+81」と記載されるヤツ)。
その仕組みと歴史的な意味なんて、全く気にしたことがない。
けれども、向井氏の指摘を受けると「なるほどなぁ」と感心し、
次に、今まで疑問に思わなかった自分に気付く。

軽く読みながらフムフムと感心し、
独自の視点を気軽に楽しむ。そんな一冊。










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「死者」とは、如何なる存在か。「身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編 (新潮文庫)」  

身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編 (新潮文庫)
養老 孟司



死者を弔う墓。
多くの人が石造の立方体を積み重ねた形式を思い浮かべると思うが、
日本でも有名な沖縄の亀甲墓や、地域によっては死体を埋葬する墓と拝む墓が別の両墓制などがあり、
地域によって様々な形態・墓制がある。

ヨーロッパ圏ともなれば、さらに異なる。
ハプスブルク家では、心臓だけをハンガリーに、残りの遺体はウィーンに埋葬する。
またユダヤ人墓地では、既存の墓を残すこと(名前を残すこと)が重要となる。
そして映画でもよく見るが、西欧圏の多くでは、墓は極めて個人的なものとして建立される。

そのような行為は、どのような思想が背景にあるのか。

一人一人の知・経験は、完全に同一のものはない。
同じ風景を見ていても、それぞれの人の視点は、それぞれ別の物語を見いだしていく。

本書は、解剖学者として生と死の関係に強い関心を抱く養老氏が、
東欧圏の墓を巡りながら、その文化的・地質的背景について思索を拡げるものだ。

明確かつ客観的な論理展開があるわけでもなく、
万人が納得できる結論が導き出されるわけでもない。

いわば、「投げっ放し」の本である。

結論を求める層にとっては消化不足に感じるかもしれないが、
おそらく本書は、そのような読み方をすべきではない。

本書は旅の記録である。
読者は養老氏と共に旅し、養老氏の独言を隣で聴いているのだ。
その独言をふまえて、読者自身でも様々に考えていく、本書の味わい方だろう。

共同体にとっての、死者の在り方。
生きている人々と断絶した存在とするのか、連続したものとみなすのか。

また、その社会にとって、死者を忘却することが是なのか、
永遠に記録することが是なのか。

生きている者の共同社会に対して、死者はいかなる存在なのか。
そうした死者観が墓制に反映されているという養老氏の指摘を知るだけでも、本書を読む価値がある。


【目次】
第1章 ハプスブルク家の心臓埋葬―ヨーロッパの長い歴史は、無数の死者と共にある
第2章 心臓信仰―日本人には見えない、ヨーロッパの古層
第3章 ヨーロッパの骸骨―チェコ、4万体の人骨で装飾された納骨堂
第4章 内なるユダヤ人―埋葬儀礼はヒト特有のもの
第5章 ウィーンと治療ニヒリズム―脳化社会と身体の喪失、その問題の萌芽を探す
第6章 自己と社会と―身体と表裏一体に存在する、意識と脳についての考察
第7章 墓場めぐり―死を受け入れた身体の扱われ方に表象する死生観
第8章 お墓が中心―名もない死体が目の前に流れ着いたとき、あなたは
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一人一人が身につけるべき、知識に対する公平なスタンス。「科学的とはどういう意味か」  

科学的とはどういう意味か
森博嗣



若い頃は「学校の勉強なんて役に立つのか」と思いがちだが、
何だかんだ言って、学校で学ぶようなベーシックな内容を、
社会人になってから「きちんと」学べる機会というのは、なかなか無い。

また、各人それぞれに学問的嗜好や得意分野も異なる。
さらに、自身に適した勉強方法というのも、異なる。

今から振り返れば、学校―特に高校半ばまでは、
人類が積み重ねてきた数々の知識のうち、ベーシックかつエッセンスとなる知識の獲得を通して、
それぞれの一生を通じて活用すべき「学ぶスキル」を身につける時期ではないか、と思う。

そして重要なのは、
「人類が積み重ねてきた数々の知識のうち、ベーシックかつエッセンスとなる知識」
が、極めて限られた範囲で、かつ随時更新されていくということだ。

そのため、一人の人間の短い人生においても、
学校で学んでいない知識、
学校で学んだ知識の最新状況など、常に確認し、更新していく必要がある。

ただ、「忙しいから、そんなことしてられない」という人も多い。

しかしそういう人ほど、日常で必須なごく基礎的な知識すら確認・更新せず、
自身や周囲の人を困らせがちだと、僕は感じている。
正直、僕はそういう人を「ワシが正しい星人」と認識しており、できればお近づきになりたくないと考えている。

しかし、残念なことに(程度の差はあれ)「ワシが正しい星人」が多いと、
世の中はその方向に動いてしまう。

また同時に、高度な知識が複雑に絡み合う現代社会においては、僕自身も、常に正しい知識・判断が可能なわけではない。
誤解や思い込みも当然ある。
社会は、それを集合知によって正しい方向に修正するメカニズムであると、期待したい。

では、その「学ぶスキル」、「集合知」とは、具体的には何か。

それが「科学」という「方法」であると、著者は示す。

そして重要なのは、著者は「科学知識」ではなく、科学という「方法」が鍵であるとしていることだ。


何が分かっていて、何が分からないのかを明確にすること。
誰もが共通に理解できる「数値」を用いること。
客観性や再現性を確認すること。
公平であり、知識に対して慎重であること。

上手くエッセンスを伝えられないが、
これらは人類が長い試行錯誤の歴史を経て、ようやく入手した科学的な知識の蓄積方法そのものだ。

これを個々人が身につけ、生活の手段とする。
それによって、初めて人はホモ・サピエンスという名前に相応しい存在になれるのではないだろうか。

著者は語る。

大勢の人が非科学的な思考をすれば、それが明らかに間違っていても、社会はその方向へ向かってしまう。ファッションや流行のように、個人的に避けられるものは良いけれど、エネルギィや防災の問題など、すべての人の生活に直結するようなものだってある。


自分や大切な人を守るために、必須の「方法」がある。
それを示すのが、本書である。

【目次】
どんなことでも少し科学的に考えてみませんか?
・算数、数学、物理、化学は他の科目と何が違うか
・子供の算数離れが加速する理由
・「幽霊はいると思いますか?」という質問の怪
・言葉を頭にインプットしすぎると考えたくなくなる
・「東京ドームの◯倍」という表現で本当に体積や面積を把握できるか
・難しいのは「問題の解決」ではなく「問題の発見」
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二人の「思い付き」から、何を掴み取れるだろうか。 「虫眼とアニ眼」  

虫眼とアニ眼
養老 孟司,宮崎 駿



昆虫採集を通して日本の移ろいを実感している、解剖学者・養老氏。
異世界を描きながら、日本人の共通的な「懐かしさ」で魅せる、宮崎駿氏。
この二人を対談させるとは、なんと見事な「思いつき」か。

ただ、本書はその「思いつき」の結実に過ぎない。
両者ともに、ある程度達観している部分があるだけに、
本書は良質の放談の域を出ず、それがおそらく本書の全てである。

戦後、日本はいかなる道を歩んだのか。
「懐かしさ」とは、どのようなモノに感じるのか。
日本人の子どもの、また大人の感性を取り戻すには、いかなる道があるのか。

本書では様々な「思いつき」が語られている。

読み手それぞれが、それぞれの体験と立場によって、
二人の「思い付き」から何かを掴み取ることができるだろう。

例えば、日本人は有史以来、自然を破壊し続けていたが、
日本の自然がそれに耐えられるほど丈夫だった(相当年数が必要としても、復活できた)。
ところが、近年の大規模な土木工事による破壊は、さすがの日本の自然力でも回復困難なのだ、という指摘がある。

この点、多くの人も誤解しているだろう。
現状よりも戦前、戦前よりも江戸時代と、時代を遡るほどに緑豊かになるだろう、と。

だが、例えば香川県の琴平山に続く峰は「象頭山」という。
琴平街道から見た山容が象の頭のようだったからというが、現在の緑豊かな輪郭からはそう感じられない。
実は長い歴史では、当山も薪炭林として伐採され続けていたようだ。
(江戸時代の絵図を見れば、禿山のようにすら見える。)
その時代、もっと山容は鋭角な輪郭を示し、なるほど象のようだったのだろう。

一般的に里山は薪炭林であり、熱エネルギーも建材も全て木材が源だったのだから、
森林は持続可能な程度に伐採し続けられていた。
過去のほうがより緑豊かだったというのは幻想であり、
日本の森林の回復力が世界的に稀なほど強力だったのだ。

そうすると、現在行われる開発が、いかに不可逆的な破壊なのかが実感できる。

また、様々な事故・災害に際して、「人のせい」と追及すること。
自然災害に対してさえ、誰のせいかを追及すれば足りるという思考は、
極めて都会的な感覚だろうという指摘もある。

その他、本書には様々な指摘や思い付きが散りばめられているが、
もちろんその全てが正しいと立証されているものでもなく、
また無批判に受け入れる必要はない。
(おそらく両者とも、そういう受け入れ方を最も否定するだろう。)

だが、自身の信じる道を歩み続けた先達が示した手掛かりであることは、間違いない。
なかなか有りえない組み合わせによって生み出されたヒントを、
うまく今後に生かしたいものだ。

【目次】
養老さんと話して、ぼくが思ったこと(宮崎駿)
『もののけ姫』の向こうに見えるもの
 対談1 1997
 対談2 1998
『千と千尋の神隠し』をめぐって
 対談3 2001
見えない時代を生き抜く―宮崎アニメ私論(養老孟司)
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