ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ゴミを侮ってはいけない。「平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)」  

平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)
文化財研究所奈良文化財研究所



1か月間の、自宅のごみの中身をチェックされると、
私生活が相当暴かれるだろう。
ごみは、人々の生活を映す鏡である。

ただ最近は、分別や焼却・リサイクルが進んだために、ごみがそのままの姿で残ることは少ない。
それが救いでもあるが、
では過去のごみは、何を物語ってくれるのだろうか。

本書でテーマとするのは、途中断絶があるものの、
710年から784年まで日本の中心地であった平城京のごみである。
今から1300年前、人々はどのように生活していたのか。

本書は全ページカラー、多数の写真を用いて、発掘された数々のごみを紹介する。
ごみといっても、考古学的資料には変わりはない。

食器や容器といった、日常生活の中で生じたもの。
瓦や屋根の装飾金具など、建物の解体過程で生じたもの。
そして木簡の表面を削ったもののように、公的な仕事から生じたもの等、
由来は様々だ。

だがそれだけに、社寺や家屋で大切に保管されて伝来したものとは異なり、
当時の人々の生き様が、具体的に視えてくる。

例えば木簡の削りかすだ。
使用済みとなった木簡は表面を削って再利用していたのだが、
その削りかすが幸いにも遺る場合がある。
そこから長屋王住居のように、邸宅の持ち主を特定する一級史料が得られることもある。
一方で、当時の顔の落書きや、文字の練習なども残っており、
現代人と同じく仕事に飽きたり、苦労した人々の息遣いが聞こえそうだ。

またごみの中のごみ、当時のウンチも立派な資料となる。
もちろんブツそのものが残っているわけではなく、その痕跡が残っているわけだが、
僅かに残る骨や植物のタネ、そして寄生虫の卵などから、
当時の食生活が解明されていく。
例えば平城京の役人が働いていた場所からは、
その寄生虫から、イノシシやブタを食べていたことが判明している。
実際、天武天皇時代(7世紀後半)には「牛、馬、犬、サル、鶏の肉食を禁ずる」旨の詔が出されているが、
その代わりにイノシシ・豚は食っていたことが裏付けされたことになる。

こうした知見は、その一つ一つは小さなものでも、
数百年前の人々の生活を明らかにする手掛かりとなる。

政治や貴族の世界は文献に記録されるが、
その周囲には、記録もされない多数の人々が生き、日々を懸命に暮らしていた筈だ。
本書は、その名もない人々が生きた痕跡を知る、楽しく重要な一冊である。

【目次】
第1章 奈良時代のごみと出会う
 ごみから生活がわかる
 平城京はどのような都市だったのか?
 発掘現場から出てくるモノ
 平城京のごみの捨て方
 平城京、平城宮マップ
第2章 ごみ捨て場をのぞいてみよう
 あんなごみこんなごみ
 ごみにも個性がある
 奈良時代のリサイクル術
 奈良時代のおまじない
第3章 木簡は奈良時代からの手紙
 人々の息吹を伝える木簡
 木簡大図鑑
 平城京遷都のナゾを解く手がかりにも!?
第4章 ウンチでわかる食生活
 奈良時代人の食事
 奈良の都のトイレ事情
 ウンチが解き明かす食生活
第5章 ごみは宝物
 「ごみってなんなんやろ」―特別対談・ゴミドコさん×考古学者けいじくん
 ゴミドコさんの正体は?!
 ごみを科学する
 平城京のごみを輝かせる仕事―奈良文化財研究所
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category: 歴史

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島津の退却、その過酷な道中を明らかに。「関ヶ原 島津退き口 (学研M文庫)」  

関ヶ原 島津退き口 (学研M文庫)
桐野 作人



関ヶ原において、敗走する島津の正面突破。
昨今メディアでもよく取り上げられるが、それは「突破時」だけでしかない。
突破後、島津勢は故郷の薩摩へ戻るため、約1,200kmの道程が残っていた。
しかも、ただの旅ではない。
追走してくる東軍勢。
落武者狩りをしようとする地元農民。
「島津勢である」と知られることは、死を意味する。
いったい彼らは、どのような道を、どのようにして辿っていったのか。

それを鹿児島県に残る諸史料、特に「旧記雑録」という、
島津勢の退却に同道した人々の書上や覚書が多数収録されている文献を丁寧に分析し、
可能な限り客観的に再現したのが、本書である。

また本書冒頭では、関ヶ原以前の島津家での家督相続問題、
その中での島津義弘の微妙な立場と、
島津本家筋である島津義久(義弘の兄)の娘、亀寿という女性の存在を丁寧にクローズアップする。
関ヶ原本題に入る前に、なぜこんな話にページを割くのかと疑問に思うところだが、
実は亀寿こそ、関ヶ原から敗走する―すなわち、覇者である家康に反抗した罪人である―義弘が、
薩摩で生き延びるための鍵であったのだ。
だからこそ義弘は、単身急ぎ敗走するのではなく、
大阪で亀寿と合流し、海路で薩摩を目指したのである。

こうした薩摩の敗走、「島津の退き口」の政治的な意味という大局的な面、
そして義弘の敗走中の地元農民との接触(それは決して幸せな接触ではない)というディテールまでが、
具体的な史料を踏まえ、本書で再現されていく。
これほどの研究が掌に入るほどの一冊で読めるのは、何と素晴らしい事か。

「島津の退き口」に興味がある方は、ぜひお読みいただきたい。
なお本書には新書版と文庫版がある。文庫版の方が版が新しく、様々な補訂がなされているため、
入手するなら文庫版とされたい。

また、「島津の退き口」の関ヶ原から大阪までの約250kmを、
一人の漫画家が6日間、追体験した記録であるエッセイ・コミックが有る。
敗走記(1)関ヶ原~大阪「島津の退き口」を辿る (イブニングKC)」という。
こちら、主人公の漫画家は「ヘタレ中年漫画家」であり、
道中、かなりネガティブな思いが続く。
その点、人によっては好みが大きく分かれるだろうが、
関ヶ原脱出後の「島津の退き口」を漫画化している点、
そして本当にごくごく一般的な「ヘタレ」(同様の弱さは、僕も含めて多くの人々にもあると思う)が、
その気持ちを正直に綴っている点から、共感できる方も多いのではないだろうか。
「(1)」と続巻がある雰囲気だが、1巻完結。
こちらを先に読むのも、良いかもしれない。


敗走記(1) (イブニングコミックス)


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文字の森から、謎を解く。「日本書紀の謎を解く―述作者は誰か (中公新書)」  

日本書紀の謎を解く―述作者は誰か (中公新書)
森 博達



日本書紀。720年に完成されたという正史である。
編纂したのが舎人親王であるということは続日本紀に記されているが、
実際のところ誰が書いたのか、全30巻がいかなる順で成立したのか等は、不明である。

日本書紀自体が最古の正史であるため、依るべき文献記録もない。

そこで成立状況を詳らかにする手法の一つが、
丁寧に文献を分析していくこと、である。

語句の出現頻度。用法。
用いられている暦など、江戸時代の本居宣長をはじめ、多くの研究者が挑み、研究を積み重ねている。

これにより、概ね全30巻は巻3系と巻14系の2系列に大別されるとされていたが、
ここに古代中国の音韻学の視点を組み込み、新たな地平を拓いたのが本書である。

従来、日本書紀の漢文は純漢文体であり、時にある誤りは「単なる誤り」か「後代の誤写」等とされていた。
これは日本書紀の格を無意識に重んじる結果でもあったろうし、
研究者に古代中国の音韻学という視点がなかったためである。

だが著者は、古代中国の音韻学を修したという武器があった。
この武器をもって日本書紀の万葉仮名を分析したところ、
古代中国の音韻を踏まえて万葉仮名が使い分けられていた巻と、
そうした配慮がなされていない巻があることを発見した。

α群(音韻に従った表記)とβ群(音韻を無視した表記)である。

これまでの分析も有用であったが、それらは「区分できる」という違いでしかない。
だが著者の研究により重要なのは、
「古代中国の音韻学に精通した人物でなければ書けない」という制約が、α群に在るという事実を見いだしたことである。

さらに著者は、文章における用字法についても、実はβ群は純漢文体ではなく、
明らかな誤用があること、
一方α群は純漢文体であり、一部在る誤用については他書を引用した部分であり、
著述者が原点の表記を尊重した結果である、という意思を見抜く。

また、α群の最初である第14巻とβ群の末尾である第13巻の著述から、
α群が先行して著述されたという指摘も行う。

これらを踏まえ、著者が導き出した結論は、
まず当時(現時点からは古代)の中国音韻学に精通した中国からの帰化第一世代がα群を著述し、
別の日本人がβ群を著述したと推測する。

α群の著者が「中国からの帰化第一世代」という点については、
α群では日本では一般的である語句に対してわざわざ注を付すという不思議な点があることの説明にもなる、という。

こうした研究と、当時の記録を組み合わせ、
著者は書紀α群の二人の著者、β群の著者、そしてこれらとは異なる30巻の著者、そして漢籍により全てを潤色した者を特定していく。

純漢文体を意識しているということは、文字の用法に厳格である、ということだ。
そして文字の用法に厳格であるということは、万葉仮名における表記についても、
当時の日本語発音と古代中国の音韻を意識した文字が選ばれている筈だ。

言われてこれば確かにそうだが、それを立証し、活用するには並大抵の知識では不可能である。
だが、本書の著者はそれを成し遂げた。
高度な国語学の知識がなくとも、その成果を一冊の新書で学べるということは、極めて幸せな話である。

【目次】
第1章 書紀研究論
第2章 書紀音韻論
第3章 書紀文章論
第4章 書紀編修論
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犬って、いい。「全国の犬像をめぐる: 忠犬物語45話」  

全国の犬像をめぐる: 忠犬物語45話
青柳 健二



犬も猫も飼ったことがあるが、数十年ぶりに犬を飼ってみると、
改めて犬って群の動物である。
飼い主なんて、犬にとっては「デッカイ仲間」なのだろう。
その特殊な関係性、その多くは「緊密な結びつき」なのだが、
それは様々な物語を産む。

忠犬ハチ公がその筆頭だし、
南極で生き残ったタロ・ジロの物語は映画にもなった。
ジロ&ハチ公
▲国立博物館のジロとハチ公。

ヒトとイヌの関係性が暗黙の前提となっているのが、
伏姫と「犬」の字を含む名字の八犬士との伝奇小説、南総里見八犬伝だろう。


記憶に残したいヒトとイヌの物語。
その多くが、「像」として昇華されている。

最初に思い浮かぶのは忠犬ハチ公、
上野の西郷隆盛像も犬を連れている。
僕の地元の金刀比羅宮には参拝犬「こんぴら狗」が在る。

本書は愛犬ヴィーノと日本一周旅行をしつつ、全国各地に残された犬の像を巡り、
その物語を紐解いていく一冊。こんな本は、たぶん他にない。

旅の途中の探訪のため、アカデミックな深堀りは無い。
それどころか、記載された物語も、各地の郷土史家などに聴いているものの、
それが唯一の定本とは限らない。
また一編ずつは短く、またエッセイ的な側面も多々ある。
だがそれでも、それだからこそ、
ふらりと出会った犬像について、地元の方に説明されているような親しさを感じる。

掲載された像にまつわるストーリーは、その多くは小さな町や村で起こり、主役は一般人とその飼い犬だ。
そんなごくありふれた日常の中で、
「像」に残したいと思うような物語が生まれている。

日本人にとって、犬はどんな位置にいたのか。
その関係について想いを馳せられる楽しい本である。

掲載された物語は45話、北海道から鹿児島まであるので、
「地元の犬」が掲載されている方も多いのではないだろうか。

それにしても上野で待ち続ける「ハチ公」があるが、
三重県津市には、上野博士とそれを見上げるハチ公像がある。
それだけでも微笑ましいのだが、まだ二人(と言って良いか)の間には、
距離感が在る。

ところが最も新しいハチ公像、東京都文京区の東京大学農学部にあるが、
この像は、上野博士に飛びつかんばかりのハチ公と、
腰を屈めて迎える上野博士の姿だ。

待ち続ける「ハチ公」ばかり見ているけれど、
このお互いの喜びを表現している像こそ、
上野博士とハチ公の素晴らしい関係を示してるのだろうなあと思った次第である。
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今こそ、昭和。「新装版 昭和史発掘 (1) (文春文庫)」  

新装版 昭和史発掘 (1) (文春文庫)
松本 清張



「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の成立により、
平成という時代の終わりが見えてきた。
元号の区切りとして、昭和の終焉しか体験したことがない人間としては、
こんな状況になるとは思いもしなかった。

おそらく、「元号」と「天皇」の一体性に関しては、
平成の終焉が初めて記憶する元号の区切りとなる人とは、
全く肌で感じるモノが異なるだろう。

平成は何の時代と呼ばれるようになるかも興味があるが、
昭和というと、やはり「激動の時代」だろう。

本書はその昭和時代の諸事件について、
綿密な調査によって検証していく、松本清張のシリーズである。
多くの「ノンフィクション」と異なるのは、
真相が不明な事件に対しては、社会派推理小説の第一人者だけあって、
松本清張による仮説・推論が展開されている点だろう。

全9巻。
今回読んだのは、第1巻であり、収録されているのは次の5編。
「昭和史発掘」シリーズだが、3編は大正時代のものだ。
また、1と2は強い関連性が有る。

1 陸軍機密費問題
 陸軍大将であった田中義一が、大正15年(1925)に政界入りする際の「持参金」、
 300万円(1円=2000円と換算して60億)の出処疑惑
2 石田検事の怪死
 1の事件も担当していた石田検事が変死体となって発見された事件
3 朴烈大逆事件
 大正13年(1923年)に、朴烈と内縁の妻の金子文子が、
 皇太子暗殺未遂(実際は爆弾の入手もしておらず、
 使途も不明な爆弾入手を断念した事実があるのみ)という大逆事件で逮捕された事件。
 取り調べ中の2人がリラックスした怪写真が出回った。
4 芥川龍之介の死
  1927年(昭和2年)7月24日没
5 北原二等卒の直訴
  1927年(昭和2年)11月、閲兵式にて軍隊内部の部落差別と改善を昭和天皇に直訴した事件

芥川龍之介の自殺以外は初めて知る事件だ。
これらの事件について、清張による事実整理、それらを巡る推論。
もちろん、これらの作品だけで事件の全てを知ったと思い、
清張の推論こそが真実と盲信することは危ういながらも、
少なくとも、混沌とした時代を痛感するシリーズである。

なおWikipediaに各巻の収録目次があり、
確認すると5巻以降は2.15事件を取り上げたものらしい。
よって単発で買うのなら、1~4巻がお勧め。
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