ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

来年のツバメが待ち遠しい。「ツバメの謎: ツバメの繁殖行動は進化する!?」  

ツバメの謎: ツバメの繁殖行動は進化する!?
北村 亘




観察会で、「野鳥なんて知らない」という方に、「では知っている鳥は?」と尋ねてみる。
だいたい「スズメ、カラス、ハト」で終わるが、
ツバメは? 白いサギは? と尋ねると、皆さん見た事がある、と答える。
それほどツバメは、意識されていない身近な野鳥なのだ。
(最近は、「駐車場を歩いている白黒の鳥は?」(=ハクセキレイ)もヒット率が高い。)

だが昔に比べると、建築物の構造的に、ツバメが営巣可能な場所は減少している。
一方昔ながらの商店街は、巣は架けられるものの、人通りが少なくツバメ好みではなくなりつつある。
ツバメはスズメと並び、人と共に暮らしてきた鳥として、
身近な鳥の代表格だが、むしろ数十年後には「懐かしい鳥」になるかもしれない。

さて、本書はそのツバメについて、丁寧な観察・研究を続けてきた筆者による謎解き本。
特定種の研究者が、概論から自身の専門分野まで解説する、親しみやすく奥が深い「◯◯の謎」シリーズである。
(これまでレビューした「◯◯の謎」は、記事末尾に掲載している。)
本書でも、研究手法から始まるが、随所に筆者ならではの知見が盛り込まれていて、野鳥好きでも楽しめる。

というか、野鳥好きであるほど、いかに「ツバメ」を見ていなかったかと気づかされるポイントが満載である。

例えば産卵・抱卵のタイミング。巣を造り、枯草を敷き詰めるが、
最後に他の鳥の羽根を拾ってきて敷き詰める(いわゆる産座だ)。
多くの巣を観察してきた筆者によると、この羽根を敷き詰めるタイミングは殆どの巣で、
卵を産む2日前という(もちろん、たまに3日前や1日前もある)。
この時期を知れば、産卵そのものを確認できずとも産卵時期が確定でき、
以降の雛の成長についても、ある程度目星がつくわれだ。

また、雛の翼長が80mmを超えれば飛翔可能で巣立ちが近いこと、
それはおよそ孵化後18日前後という。

こうした知見は、やはり数を見ないとわからない。

またもう一点、おそらく一般向けには本書で初めて指摘されたのが、
ツバメの性選択。
「ツバメは尾羽の長い♂を好む」と、様々な本に書いており、僕もそう説明してきた。

だが著者によると、日本のツバメはそうではない、という。
ヨーロッパのツバメの亜種では確かに尾羽の長さが性選択のポイントだが、
アメリカのツバメの亜種では腹の赤さがポイントになる。

そして多くのツバメのつがいを調査した結果、
日本のツバメは、喉の赤い部分の大きさ・濃さが性選択のポイントになっているという。

このように、広域に分布する種が地域によって性選択の指標が異なるというのはたまにあり、
例えばモンシロチョウもそうである(「モンシロチョウ―キャベツ畑の動物行動学 (中公新書)」(レビューはこちら)に詳しい。)。

野鳥ではそのような事例を寡聞にして思いつかないが、
なるほどツバメのような広域分布種であれば、頷ける話だ。
おそらくそれが亜種分化のポイントにもなっているのだろう。

本書ではその他、つがい外交尾、ツバメのペアの存続状況、
また自身でツバメを調べる際の手ほどきなど、興味深く親しみやすいテーマが多く含まれている。

野鳥好きだけが楽しむのは勿体ない一冊である。特に学校などに常備することを望む。

なお、p30に、NPO法人バードリサーチが調査した、ツバメの初認日報告を元にした「ツバメ前線マッピングデータ」が掲載されている。
この中で、いくつかの県が2/29以前という特異な時期を報告されているが、
おそらくこれは当該地域より北から南下してきた越冬ツバメである。

香川県も2/29以前の報告がなされているが、香川県ではおおむね11月-12月までツバメは消え、
1月から2月頃まで池で越冬ツバメが観察される。
だが、繁殖場所でツバメが観察されるのは通常3月上・中旬、当地で春一番が吹いた後である。

【目次】
1章 ツバメはどんな鳥?
2章 ツバメの1年
3章 意外と知らない、ツバメの謎
4章 調べてみよう

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人間に最も身近で、最もかけ離れた野生動物を知る。「野鳥ってすごい!」  

鳥ってすごい! (ヤマケイ新書)
樋口 広芳



昆虫はすごい 」(レビューはこちら)の後追いタイトル。
出版社の意向もあるのだろうが、こうした追随タイトルは正直情けない。
各書には各書の価値があり、それを表現する最も適したタイトルがあるはずだ。
追随タイトルは、出版社自ら「本書は流れに乗って作った程度の本です」と言っているようなもの。

本書も、内容はとても良いのに、その浅薄なタイトルで損をしている例である。
著者は、現在日本の鳥類学を牽引する第一人者。鳥類学といえば「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)」が昨今有名だが、鳥類そのものを地道に研究し続けるという意味で、愚直なまでの正統派と言える。

その著者が、最新の世界の研究も踏まえて、野鳥の驚くべき生態等を紹介するのが、本書である。
「渡り」というテーマにしても、過去の人工衛星を用いたアルゴスシステムによる渡り研究から、
最新のバイオロギングを用いた調査、著者によるハチクマ追跡プロジェクト(ハチクマ渡り公開プロジェクトサイト)などの知見まで盛り込まれており、初心者向けながらも、
ある程度野鳥好きにも楽しめる本である。

むしろ、最近多くなった撮影主体の鳥見屋さんには、こうした生態系の本も読み、
野鳥という生物の面白さを感じ、広めてほしいと思う次第である。

さて、本書のトピックをいくつか紹介しよう。
例えば、渡りだ。オオソリハシシギというシギ・チドリ類。
春秋に渡りを行うが、衛星追跡した結果、
繁殖地アラスカから越冬地のオーストラリア東部等まで、♂2羽は5日間で約7400~7400kmを、
♀7羽は6~9日で8100~11700kmを、無着陸で飛行したという。
「飛翔する生物」は数多いが、風に飛ばされるというレベルではなく、
自律的な飛翔において、ここまで特化しているというのは、凄まじい。

また、最近NHKで時折放送される、ハチを捕食するワシタカ類、ハチクマ。
なぜハチクマだけがハチに襲われても平気なのか、またなぜハチの攻撃が他の動物に対するもの程激しくないのかが不思議なところだが、近年の研究によって、
ハチクマの体全体(特に頭部)に、糸状微粒子があり、これがハチの行動を不活性化している可能性があるという。
ハチという強烈な攻撃性を持つ昆虫に対して、いったいどのような化学的防御を行っているのか、
そしてそれはどのように進化してきたのか。興味はつきない。

色について。
野鳥はヒトより可視領域が広く、近紫外線まで知覚できため、ヒトよりも多彩な色の世界に生きている。
そして、ヒトから見て雌雄が識別できない野鳥も多いのだが、
そのうち139種を調査した結果、9割以上の種にヒトが感知できない色の差があったという。
こんな情報を知ると、なんとかしてそれを見てみたいと思う。

また、野鳥自身の色については、黒や灰色を示す真正メラニン、栗色や赤褐色の亜メラニン、
赤、橙色、黄色を示すカロテノイド色素などが主体だ。
その上に本書では、アフリカに棲むエボシドリ類が固有に持つ赤(トラシン)、緑(トラコバジン)、
インコ類が持つ鮮やかな赤・黄を示すサイタコファルビンなども紹介されている。

また構造色についても、鳥類では青い色素は知られておらず、青や紫は全て構造色と考えられること、
また白い羽毛の多くも色素ではなく構造色であると紹介されている。

生態面では、
つがい外交尾を行う率が高い鳥ほど、♂に鮮やかな色や模様が発達している例が多い、とか、
日本周辺で繁殖するカンムリウミスズメが、例えば九州北部で繁殖した個体は1年をかけて日本を一周しているとか、
前述のハチクマ渡り追跡プロジェクトで得た結果、春秋の渡りコースが明確に異なること等、
野鳥を見る目が変わる話題が満載である。

さらに一章を割かれているカラス類については、
学習、遊びなど、身近で楽しめる観察テーマに直結する話も多い。
僕も電線に逆さにぶさがって遊ぶ(としか見えない)カラスを見たことがあるが、
その賢さに関しては、驚くばかりだ。

昆虫が、その小ささ・単純さ(に見える)に比して、
驚くべき複雑さを示したのが、「昆虫はすごい 」だった。

本書は逆に、それなりに複雑そうな野鳥が、
実は人間の想像を超える能力を多々持っている、という点を明らかにするものだ。

その面白さを伝える素晴らしい一冊だからこそ、ヒネリの無いタイトルが勿体ないのである。

【目次】
第1章 なんと言ってもすごい鳥の飛行術
第2章 羽毛は鳥の命綱
第3章 鳥はとってもおしゃれ
第4章 くちばしとつがいに見る鳥という生き方
第5章 渡りの謎その一 どこからどこへ?
第6章 渡りの謎その二 さらなる疑問を追って
第7章 カラスおそるべし!その知能の秘密
第8章 ずるがしこさの極み―托卵
第9章 遊ぶ鳥たち
終章 鳥からのメッセージ
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なぜ日本のアオサギは陰鬱なのか。日本文化に潜む謎に迫る「幻像のアオサギが飛ぶよ 日本人・西欧人と鷺」  

幻像のアオサギが飛ぶよ 日本人・西欧人と鷺
佐原 雄二



水辺でぼーっと佇むアオサギ。
アオサギ201502
何も考えていないようで、たぶんやっぱり何も考えていない筈だ。

(こんな喰えもしないサイズのエイと格闘することもある。)。
アオサギとエイ.jpg
僕は動物と喋れるならば、真っ先にアオサギと話をしてみたいと思っている。

さて、アオサギは近年、全国各地で普通に見られるが、かって水域の汚染が酷かった時期はかなり減少していたようだ。

例えば香川県では、次のように文献記録が変遷している。
1960年代 「本県に多い、ため池で見られる」(岡内,1968)
      (ただ、「三豊郡高瀬町に多い、又大川郡引田町附近にも相当数見かけられる。」(同書)と局地性はあったようだ。)
1970年代 「大型の池で見られるが,個体数は少ない。 」(1975,香川県環境保健部)、
1980年代 「その数はそんなに多くない。今まで見た例では、公渕池(高松市)で二五羽の群れが最大である。」(山本,1984)
現在からすると、想像できないくらいの少なさである。

そのアオサギについて、僕は昔から観察会で用いているネタがある。
(本書からのパクリと言われると困っちゃうので、例えば「野鳥案内人のノート(2) ゴイサギ」(香川の野鳥を守る会,「こげら通信」2009年2月号所収)でも書いていることを念のため記しておく)。

まず、同じサギ類に「ゴイサギ」というやつがいる。漢字では「五位鷺」。
なぜ「五位」かというと、平家物語に次のような命名由来譚がある(「延喜聖代」)。

醍醐天皇が神泉苑へ行幸した時、池の水際に鷺がいたので、六位の者に「あの鳥を捕まえてこい」と命じた。捕まえられるわけがない、と思いながらも、帝の命令なので歩み寄ると、鷺は羽づくろいして飛び立ちそうである。そこで「帝の命令だぞ」と言うと、平伏して飛ばなかった。これを捕まえてお見せすると、「命令に従って捕まえられたことはあっぱれである。五位の位を授ける」として、鷺を五位にした。今日より以後、鷺の中の王であるという札を天皇自ら記し、首に付けて放した。


ただ、ゴイサギは夜行性だが、この話は日中である。何だか違和感がありはしないか。

そして江戸時代(延宝五年(1677))の「諸国百物語」の「靍の林、うぐめの化け物の事」(江戸怪談集〈下〉 (岩波文庫)岩波文庫)では、妖怪姑獲鳥の正体として殺された「大きなる五位鷺」の挿絵にアオサギが描かれている(このアオサギ、とても痛そうな顔をしている)。
諸国百物語

また、尾形光琳もアオサギの絵に「五位鷺」と記している (光琳鳥類写生帖 (双書美術の泉 56)、岩崎美術社)。
光琳

これらのことから、少なくとも江戸時代以前、生物種としてのアオサギとゴイサギ、それに対する「アオサギ」と「ゴイサギ」という名前は混同があったのではないか、と考えた。
そうすると、前出の平家物語の話は日中の出来事なので、この話に限っては、実はアオサギという種についての話ではないか、と考えられる、というネタだ。

この推測を補強するためには、アオサギに関する古文献を色々見なきゃなと思っていたのだが、当然のことながら放置していた。

さて、本書である。
野鳥の特定種をテーマとした本は時折り刊行されるが、多くは絶滅が危惧される種(例えば「二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ」(レビューはこちら))、または親しみやすいフクロウやスズメ(例えば「スズメの謎―身近な野鳥が減っている!?」(レビューはこちら)に関するものである。

よもや、アオサギなんていう極めてマイナーな種について一冊が成されるとは思いもかけなかった。

そしてその内容。
・日本と西洋におけるアオサギに対するイメージの差異、
・その根本原因として「穀霊」としてのサギ類から「妖怪」への変遷、
・鷺鉾を用いる滋賀県の「ケンケト祭」、そしてサギ類の「冠羽」の服飾品利用による乱獲史など、
幅広い分野に及ぶ力作である。

そして当然ながら、僕の上記の思いつきについても同様に注目されており、それどころか更に広範囲の文献が探索されている。
悔しいが、僕の着眼もあながち的外れでなかったと感じ、嬉しい限りである。
そこで当該ネタに関する部分を詳しく読んだ。

関連文献の一つとして、著者は「玉藻前物語」(1470年末の古写本)を紹介してくれている。

むかし、ゑんきの御かとの御事を、うけ給はるに、(中略)いけの、みきわに、あをさきの、いたりける□、六いをめして、かのさき、とりてまいれと、(中略)なんち、とりのなかのわうたるへしとて、五いになして、はなされにけり、それよりして、あをさきをは、五いと申とかや


なんと、こちらでははっきりと「あをさき(アオサギ)」を捕獲し、それを「五位鷺」と言うことになったと書いている!

著者は、生態面から「平家物語のゴイサギ」=ゴイサギ幼鳥説であるが(上記の玉藻前物語についても、「アオサギとゴイサギの混同の物語は何とも奥深いものだと言わねばなるまい。」とのみ記している)、僕はこの文献を踏まえて、やはり「平家物語のゴイサギ」= アオサギ説を取りたい。
どちらが正解かなんて分かる由もないが、面白いテーマである。

このように、身近なアオサギひとつにしても、これほど奥深く楽しめるのだと示してくれる本書。
野鳥好きでなくとも、お勧めである。
(特に僕としては、上記の「平家物語のゴイサギ」問題について取り上げていただいている点について、
著者の佐原氏に直接お礼が申し上げたい思いなのだが、残念ながらご連絡先がわからない。本ブログが誰かを解して伝わることを願う。)

なお、著者が滋賀県の「ケンケト祭」を知る契機となった本、
稲と鳥と太陽の道―日本文化の原点を追う」は、かなり昔の刊行ながら、
日本における稲作と鳥信仰の関係について極めて興味深い数々の事例紹介と考察がなされている。
(例えば、墓地の竿を立て、その上に鳥の模型を立てる習慣が、鳥取県や鹿児島県長島、長崎県島原半島、大分県海岸部、宇和島、対馬などにあること等も紹介されている。対馬では木製のツバメが立てられるという。ツバメは速く飛ぶため、あの世へも速くつれて行ってくれるだろうという考えからではないかとのことだが、日本人とツバメの関わりという点でも興味深い。)

【目次】
第1部 分裂するアオサギ像―日本と西欧
第2部 妖怪アオサギ―日本人にとってのサギ
第3部 羽根飾り問題とサギたち


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街を歩き、野鳥を見よう。「身近な鳥の生活図鑑 」  

身近な鳥の生活図鑑 (ちくま新書)
三上 修



スズメの謎―身近な野鳥が減っている!?」(レビューはこちら )、「スズメ――つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー〈生きもの〉)」(レビューはこちら )など、スズメの研究者として認識されている著者による、
「身近な鳥」-スズメ、ハト、カラス、そしてツバメ・ハクセキレイ・コゲラを取り上げた本。
ただ「図鑑」と言いながらも、内容は識別ではなく、特徴的な生態の紹介である。

最近は、特に珍しい野鳥を追いかける人が多くて、
「なんたらなんたらシギ」も「なんたらかんたらズク」も撮影したけど、
目の前の野鳥の生態については何も知らない、という人も残念ながら少なくない。

どうも、識別図鑑は持っているけれど、各野鳥の研究者の本とか、渡りの本とか、
その他生態や保護に関する本なんて読んだこともないようだ。

本書は、最新研究成果のダイジェストではなく、
身近な鳥の存在を最近知ったような、初心者の方向けの内容となっている。

だが実のところ、珍鳥を追いかけて日が暮れる人、
野鳥撮影に夢中になって当の野鳥を飛ばしたり、地元の方とトラブルになる人など、
「野鳥の見た目」だけを気にする人にこそ、読んでいただきたい。

野鳥は、人間が日中観察できる、数少ない野生動物だ。
野鳥を相手にした趣味を楽しむなら、まずはその生き様を知ることの方が、
撮影のために地元の人に迷惑をかけたり、
珍しい野鳥が飛び立つまで追いかけ回すよりも、よっぽど先に行うべきことと思うが、いかがか。

【目次】
第1章 鳥にとって町はどんなところか?
第2章 スズメ―町の代表種
第3章 ハト―いつからか平和の象徴
第4章 カラス―町の嫌われ者?
第5章 町で見かける他の鳥たち
第6章 都市の中での鳥と人



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冬の隣人・カモ類を極めるために、必須にして現在最高の図鑑。「決定版 日本のカモ識別図鑑: 日本産カモの全羽衣をイラストと写真で詳述」  

決定版 日本のカモ識別図鑑: 日本産カモの全羽衣をイラストと写真で詳述
氏原 巨雄,氏原 道昭



野鳥観察を始めた方には、シギ・チドリ類はどれも同じに見えるだろう。
また、冬の海辺のカモメ類はただでさえ観察しづらいのに、
齢による羽衣変化があるうえ、セグロカモメの仲間の分類がよく変わり、学名・和名共にやや混乱している。
ワシタカ類も性・齢による羽衣変化が大きいうえに、そもそも出会う頻度自体が少ない。

だが、こうした識別が困難なグループほど、出会った1個体をじっくり見る喜びは大きい。
種名だけでなく、性や齢を追及する面白さ。
亜種を知れば、ダイナミックな渡りに思いを馳せ、
じっくり観察し続けることで、時には思いがけない珍しい個体を見いだすことすらあるだろう。

そんな喜びに嵌まった多くの方が、こうした「識別が難しいグループ」に挑み、様々な知見が文献となり刊行されてきた。
ワシタカ類だと「図鑑日本のワシタカ類」。シギ・チドリ類だと「シギチドリ類ハンドブック」、カモメ類だと「カモメ識別ハンドブック」あたりが、まずは定番だろう。

このうち、カモメとシギチの両ハンドブックの著者は、同じ氏原巨雄・道昭の両氏。
お二人の図鑑には、国内外の記録や文献の精査、実地での詳細な識別経験、そして自身がイラストを描かれることにより説明と図の食い違いがないという大きな特徴があり、それが高い評価に繋がっている。

90年代前半、両氏による「カモメ識別ガイド (BIRDERスペシャル)」がカモメに関する最も重要な識別資料の一つとして有名だったが、そのクォリティをさらに高めた「カモメ識別ハンドブック」(現在は改訂版。初版は2000年刊行)は、日本のカモメ識別レベルを引き上げた重要な一冊と言える。
また、「シギチドリ類ハンドブック 」が刊行された際にも大きな話題となっており、僕のように、この2冊のハンドブックを常備している方も多いと思う。

そして今回、三たび両氏が著者となり刊行されたのが、本書「決定版 日本のカモ識別図鑑」だ。
カモ類については♂が識別しやすい一方、
エクリプスや幼鳥の識別はなかなか厄介で、これまでの図鑑では、あまり詳細に踏み込んでいなかった。
そのため、各種の雌・エクリプス・幼鳥まで網羅的に確認しようとすると、
それこそ90年代に氏原氏が雑誌BIRDERに書いた記事くらいしかなかった。

しかし満を持して、今回「決定版」と銘打ってカモ類図鑑が刊行されたわけだ。

本書では、水面採餌ガモを巨雄氏が、潜水ガモを道昭氏が担当。
お馴染みイラストはかなり大きめで、明瞭に識別点をチェックできる。
しかも、これまでの図鑑には無く細かな性・齢のステージごとに描き分けられている。

例えばヒドリガモでは飛翔図(♂生殖羽、♂幼羽→第1回生殖羽、♀成鳥、♀幼羽)、横からの図として♂生殖羽、♂エクリプス、♂エクリプス→生殖羽、♂幼羽→第1回生殖羽、♀生殖羽、♀非生殖羽、♂第1回生殖羽、♀幼羽、♂幼羽の計13図を掲載。こんな感じで全種が通されているという、驚愕の内容である。

また、これまでの両氏のハンドブックとの大きな違いとして、写真が多用されている点がある。
きちんと撮影地と年月日が付された多数の写真によって、様々な中途半端な時期の個体をイラストと比較しながら識別することができ、誌上で識別力を高めることができるだろう。

さらに、アメリカヒドリとヒドリガモ、コガモとアメリカコガモなど、
じっくりチェックしたい話題については数ページと多数の写真を用いて解説。
「雌は識別しにくい」と逃げるどころか、♂♀成幼、全ての組み合わせで解説するという充実ぶりだ。

48種のカモ類のみに限定しながら、300ページという昔の野鳥図鑑なみのボリュームであり、
掲載された情報量はちょっと類を見ないもの。
これだけの知見を様々な文献から自力で探すのは困難である。

シギ・チドリ類などに比較すると、カモ類は安易に識別できる(少なくとも♂では種レベルは分かりやすい)と考え、
僕ももとより、おそらく 多くの方が安易に見てきたと思う。

しかし、本書は「きちんと見ればこれだけ識別できるのだ」と教えるとともに、
暗に、これまでの一般的な見方がいかに浅かったかを突きつける。野鳥の世界の底深さを改めて思い知らされる一冊だ。

本書は「決定版」の名のとおり、「シギチドリ類ハンドブック 」、「カモメ識別ハンドブック 」に続き、
おそらく今後のカモ識別のバイブルとして、長く使われることだろう。

ただ残念ながら、あまりに完成度が高く評判も良いので、ネット上ではもう在庫がなく、しかも版元も品切れだ。(2016年2月16日HP閲覧)
ネット上の一部ではプレミア価格までつけられているので、興味がある方は、お近くの書店で発見した際には迷わず購入されたい。
数年後に改訂版が出るかもしれないが、このような基礎文献は絶対に早期に入手し、
少しでも早く実地に使っていきたい。

【目次】
この図鑑の使い方
用語解説
各部位の名称
換羽と各羽衣の特徴
水面採餌ガモ♀の生殖羽と非生殖羽
カモ類の色彩異常
カモ観察の手引
水面採餌ガモ
潜水採餌ガモ

▼カモメ類を齢ごとに図示。冬の海辺での観察時は必携。


▼シギ・チドリ類を詳述。持ち運びも軽く、春秋の水辺では常備しておきたい。


▼現在は第2版が刊行されている、日本産ワシタカ類の刊行当時の知見を全て盛り込んだ大形図鑑。
 初版も18,000円(税抜)しており、僕には第2版まで買う気力は無かった。
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