ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

野鳥における、雌雄の仕組み。「♂♀のはなし〈鳥〉」  

♂♀のはなし〈鳥〉
上田 恵介,竹井 秀男



なぜ動物にオスとメスがあるのか。
この点については、「オスとメス=性の不思議 (講談社現代新書)」(レビューはこちら)という良書があるが、
これに先駆ける1993年、野鳥の世界におけるオスとメスの謎について解説したのが、本書である。

オスとメス=性の不思議 (講談社現代新書)」が網羅的な解説である一方、
本書は野鳥の様々な実例を踏まえ乍ら解説している。
時代の制約から、
例えば一夫一妻になるか一妻多夫になるかという点について、餌の取りやすさという環境要因が影響しているといったややアバウトな説明になっている箇所もあるけれども、その本質は今も十分通用する。
むしろ野鳥に関心がある人なら、具体的なイメージが湧く本書の方が楽しいだろう。

なぜ胎生の鳥がいないか、という点から始まり、
まずはオスとメスのどちらが子育てをするか、というテーマへ。

そして種内托卵という野鳥ならではのトピックへ進む。

第2章では、求愛ディスプレイと囀りについて。
この章については今も様々な分野で紹介されており、
フウチョウ類の派手な飾り羽、ニワシドリ類の庭造りなど、既に見聞きした事例も多いだろう。
むしろ、セッカの「ヒッヒッ」という囀りについて、
普段は10回以内だが、求愛巣が完成してメスを呼び込む準備が整うと、100回以上も繰り返す、
すなわち短めの囀りは縄張り宣言、長い囀りはメスを誘うためだという著者の研究成果の方が、
鳥屋としては面白いだろう。

第3章はつがい関係の成立、第4章はメスによるオス選定、
第5章は浮気とつがい外交尾と、
様々な野鳥の実例を紹介しながら、野鳥におけるつがい形成のバリエーションを紹介する。

オスとメスの関係性については、
総論としては「オスとメス=性の不思議 (講談社現代新書)」などが良いだろうが、
それを個々の分類群や種で理解しようとすると、
例えば群で行動するのか縄張りを持つのか、群の場合は血縁関係がある集団なのか、
子育てにおいても親以外のヘルパーの関与の有無など様々な要因があり、一筋縄で理解できるとは言えない。

だからこそ本書のように、その分類群の研究者が、
「オスとメス」等のテーマを踏まえて解説してくれる本が重要なのである。

野鳥関係でいえば、本書の著者である上田 恵介氏のほか、
羽田 健三氏、中村 登流氏らの本こそ読まれるべきなのだが、
昨今は図鑑出版のみが盛り上がり、
こうした地道な研究成果を踏まえた本が振り返られることがなくなっている。

野鳥観察の次の一歩を踏み出すためにも、本書を初めとした「古い本」の再版を望む。


【目次】
第1章 子育て
第2章 求愛とさえずり
第3章 つがい関係
第4章 メスによる選り好み
第5章 浮気と不倫


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フィールドワークの醍醐味を伝える。「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」  

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
川上 和人




最も親しいスズメにしても、詳しい生態を知り、他種との違いの意味を読み取り、
なぜ「今」目の前にいるのか、なぜ「スズメ」という種が日本にいるのかを説明できる人は、ほとんどいないだろう。
それを読み解くことが、生物を相手にした趣味の醍醐味であり、それを仕事にしたのが生物学者である。

本書は鳥類学者である著者が、これまでの様々な研究テーマのトピックスを織り交ぜながら、
実際のフィールドワークについて紹介するもの。

前著、「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー) 」、「そもそも島に進化あり (生物ミステリー)」(レビューはこちら )のように1テーマを追及した本と異なり、本書は著者自身の日常を記録したものだ。
そのため統一されたテーマは無いものの、随所に散りばめられている鳥類学的知見については、多くの方が驚くのではないだろうか。
また、そこそこ鳥関係の本を読んでいる層であっても、近年話題となったテーマの舞台裏が取り上げられていて、興味深い。

例えば、絶滅したと思われていた小型ミズナギドリ「ブライアンズ・シアウォーター」を、2012年に小笠原で再発見し、
「オガサワラヒメミズナギドリ」という和名を付けた件。

報道では、
「アメリカで記録されていた小型ミズナギドリ「ブライアンズ・シアウォーター」が、小笠原で生きていたのを再発見した」
というニュアンスであり、そう理解していた。
だが、同種は実は長くヒメミズナギドリに紛れていて、誰も存在に気づいていなかった。
剥製標本から「ブライアンズ・シアウォーター」たる新種と認められたのが、2011年8月。
すなわち、「昔から知られていた種」ではなく、近年の再調査によって発見された種だったのである。

一方、実は、著者は2006年12月には既に小笠原産の本種の標本をDNA分析し、
新種かもしれないという感は抱いていたという。
もし、その時に詳細に調べていれば、「日本から、ヤンバルクイナ以来の新種鳥類発見!!」なんて報道になっていた可能性もあったのである。
この件に関する著者の弁は、ぜひ実際に本書を読んでいただきたいが、逃がした魚(というか鳥)は大きい。

また他にも本書では、話題となった新島・西ノ島での調査記、
絶海の孤島である南硫黄島での上陸調査などなど、現代の「鳥類学者」のフィールドワークを垣間見れる。
ノーベル賞をもらうような物理学者の世界とは全く異なるが、
生き物を相手にした調査って面白いということを実感できる一冊である。
 
本書と「[カラー版]昆虫こわい (幻冬舎新書)」(レビューはこちら)は、フィールドワーク好きなら絶対に読んで楽しい本である。
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野鳥観察、始めてみない? 「カラス屋の双眼鏡 (ハルキ文庫)」  

カラス屋の双眼鏡 (ハルキ文庫)
松原 始



野鳥は、日常的に見ることが可能な数少ない野生動物である。

だからこそ、本当は毎日、「野生動物の脅威の生態!」というテレビ番組で流れるような出来事を、
自身の眼で見いだすことも可能なはずだ。

だが野鳥観察(撮影)が趣味だという人間であっても、
識別(及び識別に役立つ生態)には詳しくても、
繁殖や子育て、縄張り等といった「野鳥の生き様」に興味を持ち、見ようとする人は少ない。

種の「識別」が野鳥観察の始まりでありゴールのように思っている方も多いが、本当は入口に過ぎない。
例えば身近なスズメであっても、その生態を知れば、「今そこにいる理由」が見えてくる。
それどころか、野鳥がいなくても、アオキの実一つでヒヨドリを(そこから果実食、種子散布、ヒヨドリ科の分布北限を)、ツバキの花一輪だけでもメジロを(そして花粉媒介、鳥媒花の構造を)語ることが可能だ。

僕も野鳥観察会で案内する場合は、できるだけ識別だけではない野鳥の魅力をお伝えしようと心掛けているが、
その都度、自分自身が「見ていない」「知らない」ことばかりと感じている。

さて、本書は、カラス研究者である著者によるもの。
もちろん本職のカラスの話題も多いが、カラスだけでなくオオヨシキリやコチドリの巣探索、
アカアシチョウゲンボウとの出会い、サル調査での遭難など、
様々な野鳥や動物観察(研究)の日々と、その苦労・工夫・面白さが記されている。

野鳥観察を含むフィールド体験が少ない人なら、あたかも自分が一緒に観察しているような楽しさを得られるし、
野鳥観察(撮影)趣味人であれば、生態調査の良き事例として参考になるだろう。

「自分で見て、自分で知る」事ほど面白いコトはないが、本書はその一歩を踏み出す契機となる一冊だ。
(香川県で野鳥観察を初めてみたい方は、ぜひ香川の野鳥を守る会へ。)

ところで、本種中盤に掲載されている「非科学的な経験」で、
フィールワーク中の「あるできごと」について記されている。

科学者らしく冷静に分析しているが、だからこそ、いやはや恐い体験談である。
僕も調査でたまに夜間・夜明け前に山中やアシ原の中に入ることがあるが、
ああもう、今度からこのエピソード思い出してしまうだろうな。

【目次】
第1章 やっぱりカラスが好き
第2章 鳥屋のお仕事
第3章 カラス屋の日常
第4章 じつはこんなものも好き
第5章 カラス屋の週末




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来年のツバメが待ち遠しい。「ツバメの謎: ツバメの繁殖行動は進化する!?」  

ツバメの謎: ツバメの繁殖行動は進化する!?
北村 亘




観察会で、「野鳥なんて知らない」という方に、「では知っている鳥は?」と尋ねてみる。
だいたい「スズメ、カラス、ハト」で終わるが、
ツバメは? 白いサギは? と尋ねると、皆さん見た事がある、と答える。
それほどツバメは、意識されていない身近な野鳥なのだ。
(最近は、「駐車場を歩いている白黒の鳥は?」(=ハクセキレイ)もヒット率が高い。)

だが昔に比べると、建築物の構造的に、ツバメが営巣可能な場所は減少している。
一方昔ながらの商店街は、巣は架けられるものの、人通りが少なくツバメ好みではなくなりつつある。
ツバメはスズメと並び、人と共に暮らしてきた鳥として、
身近な鳥の代表格だが、むしろ数十年後には「懐かしい鳥」になるかもしれない。

さて、本書はそのツバメについて、丁寧な観察・研究を続けてきた筆者による謎解き本。
特定種の研究者が、概論から自身の専門分野まで解説する、親しみやすく奥が深い「◯◯の謎」シリーズである。
(これまでレビューした「◯◯の謎」は、記事末尾に掲載している。)
本書でも、研究手法から始まるが、随所に筆者ならではの知見が盛り込まれていて、野鳥好きでも楽しめる。

というか、野鳥好きであるほど、いかに「ツバメ」を見ていなかったかと気づかされるポイントが満載である。

例えば産卵・抱卵のタイミング。巣を造り、枯草を敷き詰めるが、
最後に他の鳥の羽根を拾ってきて敷き詰める(いわゆる産座だ)。
多くの巣を観察してきた筆者によると、この羽根を敷き詰めるタイミングは殆どの巣で、
卵を産む2日前という(もちろん、たまに3日前や1日前もある)。
この時期を知れば、産卵そのものを確認できずとも産卵時期が確定でき、
以降の雛の成長についても、ある程度目星がつくわれだ。

また、雛の翼長が80mmを超えれば飛翔可能で巣立ちが近いこと、
それはおよそ孵化後18日前後という。

こうした知見は、やはり数を見ないとわからない。

またもう一点、おそらく一般向けには本書で初めて指摘されたのが、
ツバメの性選択。
「ツバメは尾羽の長い♂を好む」と、様々な本に書いており、僕もそう説明してきた。

だが著者によると、日本のツバメはそうではない、という。
ヨーロッパのツバメの亜種では確かに尾羽の長さが性選択のポイントだが、
アメリカのツバメの亜種では腹の赤さがポイントになる。

そして多くのツバメのつがいを調査した結果、
日本のツバメは、喉の赤い部分の大きさ・濃さが性選択のポイントになっているという。

このように、広域に分布する種が地域によって性選択の指標が異なるというのはたまにあり、
例えばモンシロチョウもそうである(「モンシロチョウ―キャベツ畑の動物行動学 (中公新書)」(レビューはこちら)に詳しい。)。

野鳥ではそのような事例を寡聞にして思いつかないが、
なるほどツバメのような広域分布種であれば、頷ける話だ。
おそらくそれが亜種分化のポイントにもなっているのだろう。

本書ではその他、つがい外交尾、ツバメのペアの存続状況、
また自身でツバメを調べる際の手ほどきなど、興味深く親しみやすいテーマが多く含まれている。

野鳥好きだけが楽しむのは勿体ない一冊である。特に学校などに常備することを望む。

なお、p30に、NPO法人バードリサーチが調査した、ツバメの初認日報告を元にした「ツバメ前線マッピングデータ」が掲載されている。
この中で、いくつかの県が2/29以前という特異な時期を報告されているが、
おそらくこれは当該地域より北から南下してきた越冬ツバメである。

香川県も2/29以前の報告がなされているが、香川県ではおおむね11月-12月までツバメは消え、
1月から2月頃まで池で越冬ツバメが観察される。
だが、繁殖場所でツバメが観察されるのは通常3月上・中旬、当地で春一番が吹いた後である。

【目次】
1章 ツバメはどんな鳥?
2章 ツバメの1年
3章 意外と知らない、ツバメの謎
4章 調べてみよう

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人間に最も身近で、最もかけ離れた野生動物を知る。「野鳥ってすごい!」  

鳥ってすごい! (ヤマケイ新書)
樋口 広芳



昆虫はすごい 」(レビューはこちら)の後追いタイトル。
出版社の意向もあるのだろうが、こうした追随タイトルは正直情けない。
各書には各書の価値があり、それを表現する最も適したタイトルがあるはずだ。
追随タイトルは、出版社自ら「本書は流れに乗って作った程度の本です」と言っているようなもの。

本書も、内容はとても良いのに、その浅薄なタイトルで損をしている例である。
著者は、現在日本の鳥類学を牽引する第一人者。鳥類学といえば「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)」が昨今有名だが、鳥類そのものを地道に研究し続けるという意味で、愚直なまでの正統派と言える。

その著者が、最新の世界の研究も踏まえて、野鳥の驚くべき生態等を紹介するのが、本書である。
「渡り」というテーマにしても、過去の人工衛星を用いたアルゴスシステムによる渡り研究から、
最新のバイオロギングを用いた調査、著者によるハチクマ追跡プロジェクト(ハチクマ渡り公開プロジェクトサイト)などの知見まで盛り込まれており、初心者向けながらも、
ある程度野鳥好きにも楽しめる本である。

むしろ、最近多くなった撮影主体の鳥見屋さんには、こうした生態系の本も読み、
野鳥という生物の面白さを感じ、広めてほしいと思う次第である。

さて、本書のトピックをいくつか紹介しよう。
例えば、渡りだ。オオソリハシシギというシギ・チドリ類。
春秋に渡りを行うが、衛星追跡した結果、
繁殖地アラスカから越冬地のオーストラリア東部等まで、♂2羽は5日間で約7400~7400kmを、
♀7羽は6~9日で8100~11700kmを、無着陸で飛行したという。
「飛翔する生物」は数多いが、風に飛ばされるというレベルではなく、
自律的な飛翔において、ここまで特化しているというのは、凄まじい。

また、最近NHKで時折放送される、ハチを捕食するワシタカ類、ハチクマ。
なぜハチクマだけがハチに襲われても平気なのか、またなぜハチの攻撃が他の動物に対するもの程激しくないのかが不思議なところだが、近年の研究によって、
ハチクマの体全体(特に頭部)に、糸状微粒子があり、これがハチの行動を不活性化している可能性があるという。
ハチという強烈な攻撃性を持つ昆虫に対して、いったいどのような化学的防御を行っているのか、
そしてそれはどのように進化してきたのか。興味はつきない。

色について。
野鳥はヒトより可視領域が広く、近紫外線まで知覚できため、ヒトよりも多彩な色の世界に生きている。
そして、ヒトから見て雌雄が識別できない野鳥も多いのだが、
そのうち139種を調査した結果、9割以上の種にヒトが感知できない色の差があったという。
こんな情報を知ると、なんとかしてそれを見てみたいと思う。

また、野鳥自身の色については、黒や灰色を示す真正メラニン、栗色や赤褐色の亜メラニン、
赤、橙色、黄色を示すカロテノイド色素などが主体だ。
その上に本書では、アフリカに棲むエボシドリ類が固有に持つ赤(トラシン)、緑(トラコバジン)、
インコ類が持つ鮮やかな赤・黄を示すサイタコファルビンなども紹介されている。

また構造色についても、鳥類では青い色素は知られておらず、青や紫は全て構造色と考えられること、
また白い羽毛の多くも色素ではなく構造色であると紹介されている。

生態面では、
つがい外交尾を行う率が高い鳥ほど、♂に鮮やかな色や模様が発達している例が多い、とか、
日本周辺で繁殖するカンムリウミスズメが、例えば九州北部で繁殖した個体は1年をかけて日本を一周しているとか、
前述のハチクマ渡り追跡プロジェクトで得た結果、春秋の渡りコースが明確に異なること等、
野鳥を見る目が変わる話題が満載である。

さらに一章を割かれているカラス類については、
学習、遊びなど、身近で楽しめる観察テーマに直結する話も多い。
僕も電線に逆さにぶさがって遊ぶ(としか見えない)カラスを見たことがあるが、
その賢さに関しては、驚くばかりだ。

昆虫が、その小ささ・単純さ(に見える)に比して、
驚くべき複雑さを示したのが、「昆虫はすごい 」だった。

本書は逆に、それなりに複雑そうな野鳥が、
実は人間の想像を超える能力を多々持っている、という点を明らかにするものだ。

その面白さを伝える素晴らしい一冊だからこそ、ヒネリの無いタイトルが勿体ないのである。

【目次】
第1章 なんと言ってもすごい鳥の飛行術
第2章 羽毛は鳥の命綱
第3章 鳥はとってもおしゃれ
第4章 くちばしとつがいに見る鳥という生き方
第5章 渡りの謎その一 どこからどこへ?
第6章 渡りの謎その二 さらなる疑問を追って
第7章 カラスおそるべし!その知能の秘密
第8章 ずるがしこさの極み―托卵
第9章 遊ぶ鳥たち
終章 鳥からのメッセージ
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