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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

本棚探偵の旅は、終わらない。「本棚探偵の生還」  

本棚探偵の生還
喜国雅彦



鉄道趣味に撮り鉄・乗り鉄というジャンルがあるように、
本においても、読む楽しみ、装丁を見る楽しみ、蒐める楽しみなどがある。
特に「蒐める趣味」が顕著なのが、古本マニアだ。

どんな趣味でもマニアが集まればカオスな世界が広がるが、それも楽し。
一緒に体験できないなら、せめて外からその宴を堪能したい。

本書は古本マニアとしても相当な域に達してしまった漫画家・喜国氏による、
古本を巡る様々な「遊び」の記録である。
本棚探偵の冒険 (双葉文庫)」(レビューはこちら)を端緒として、本書はシリーズ3冊目。
(僕は入手の制限から2冊目は飛ばしてしまったので、それは今後の愉しみだ。)

1冊目の「古本開眼」という趣から比較すれば、本書はややペースダウン。
古本趣味はもはや「当然」であり、そこからよりコアな遊びを開拓するという感じだ。
マラ本マン(古本マラソン)、台湾での書店・古書店巡り、風呂場での読書、
イギリスの古本街、「古書の聖地」と呼ばれるヘイ・オン・ワイ探訪、
読書のみを目的とした鉄道旅行など、
古本好き・旅行好きならニヤニヤしてしまうトピックを収録。
単行本はいまどき珍しい函入り二冊組という造本で、持つ楽しみもバッチリである。
ただ約1/3程度は、本棚探偵としての作品ではなく、媒体に書いたもの(例えば文庫の解説等)となる。
その点、ちょっと残念。

ごくごく個人的には、
1970年代に刊行されていた探偵小説専門雑誌「幻影城」の編集長・ 島崎博氏が、
著者の喜国氏が高校時代に師事した美術教師に似ているという記述が在ったが、
その美術教師ってH画伯だよね、と後輩(まったく時代は違うけど)は思った次第である。


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category: 読書

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予報を正しく理解するために、必読。「台風についてわかっていることいないこと」  

台風についてわかっていることいないこと
筆保 弘徳/山田 広幸



分析を進めたところ、2005年から2014年の10年間は、それより前の期間に比べて台風の急発達の発生率が急激に増加していることに気づきました。台風の急発達は―ここでは24時間以内に最大風速が15m/s以上速くなったものを指します―予測がとても難しいとされており、急発達を予測できないと、大きく予想を外すことになります。(p141)


初夏から(嬉しくないが)日常になるのが、台風の予報だ。

2018年の豪雨で我が家の上手の池の堤も壊れ、幾度か避難対象となった。
こうしたことから、台風が発生するたびに予報をチェックしていたのだが、
その予報には実は、3種類ある。

進む方向に関する進路予報、
強さに関する強度予報、
そしていつ発生するかという発生予報だ。

普通、僕らが気にする台風予報とは進路予報と強度予報をミックスしたもの。
台風に関して理解するには、まずこの二つの違いを知ることが重要だ。

進路予報は、1997-2016の20年程度で、その誤差は半分程度になっている。
具体的に言えば、進路予報の円の半径が半分以下になったのだ。
この進路予報についても様々な手法が有り、
様々な数値をベースにする王道たる数値予報、
それをベースにいくつかの不確実性を加味したアンサンブル予報など、
日々改善されている。

一方で課題があるのが、強度予報だ。
これは気象庁のみの問題ではなく、根本的な難しさをはらんでいる。
一つは、台風の強度に関するメカニズムの理解。
台風の強度には、海面水温、海洋の貯熱量、風の鉛直シア、内部構造等々様々な要因が絡んでおり、
単純言えば、人類はまだそれを理解できていない。
その理由は、その複雑さはもちろんだが、
台風そのものの各部位を、実際に調査・測定することの困難さがある。

本書ではその改善策として、
研究者による台風飛行機観測もドキュメントとして掲載されているが、
この2017年に行われた観測が、実は日本初という。
これは研究側の怠慢というより、
ようやく日本の研究体制が台風を直接観測しうるレベルに達した、ということだろう。
(米軍はプロペラ機で直接観測していたが、それも1987年で途絶えている。)

そしても一つの難しさは、冒頭に掲げた急速発達だ。
様々な要因により、短時間のうちに急激に発達する急速発達を理解するということは、
その契機となる要因、発達メカニズム等々を理解するという事であり、
それは結局、台風という複雑な気象現象の中でも、最も複雑な部分を理解するということだ。

本書では、これらの課題に対する現状の取り組み、成果、
そして今後の展望などが、複数の研究者によって紹介されている。

台風予報で気象庁とならんでよく見るJTWC(米軍の合同台風警報センター)のデータと
気象庁のデータの違いとその理由、
世界初となる、特定地域を中心とした周囲のどこを台風が通過すると、
その特定地域に吹く風の方向・強さを予測した台風ハザードマップの紹介など、
先進的な取り組みも紹介されている。

(この台風の被害予報―台風ノモグラムは、
「台風ソラグラム」としてスマートフォンで確認できる。

スマートフォンのブラウザで「ライフレンジャー」と検索し、
左上のメニューアイコンから「防災・備え」→「台風ソナグラム」と見ていただきたい。
(詳しい紹介は、ライフレンジャーのHPに記事が在る。)

香川は災害には縁が(ほぼ)無い県だったが、
以前に比較して、香川県を通過する台風も、そう珍しくはなくなっている(体感)。

本書を通じて、
・進路予報は、確実性が高い(から、甘く見てはいけない)、
・強度予報は、急速発達する可能性がある( から、甘く見てはいけない)
ということを知っているだけでも、台風予報への理解が変わるだろう。


【目次】
第1章 台風ニ突入セヨ―正解のないテストをぬり替える
第2章 台風発生のトリガーに迫る!―台風の「生まれつき」?
第3章 台風が発達するワケ―台風一代記
第4章 荒れ狂う海で何が起こっているのか?―いち研究者の視点から
第5章 気象庁vs台風―台風予報の最前線
第6章 100年後の台風―地球温暖化は台風にどのような影響を与えるのか?
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category: 地学

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この店に、行きたい。「古本蟲がゆく―神保町からチャリング・クロス街まで」  

古本蟲がゆく―神保町からチャリング・クロス街まで
池谷 伊佐夫



八百屋、魚屋、本屋等々、いわゆる個人商店は多々あるが、
その中でも古本屋には、極めて濃厚な個性がある。

普通の店は「新しいもの」を販売するからどうしても画一的になるが、
「古いもの」に価値を見いだす古本屋は、
その「価値を見いだす」という行為に、店主の想いが反映されるからだ。

そうすると、
全国津々浦々の古本屋を訪れ、その佇まいを俯瞰図として書き起こした本書は、
様々な古書店主のポートレートと言って良い。

また、それぞれの店で購入した本も「収穫」として掲載されている。
もちろん僕の興味が無いジャンルだと全く価値が分からないが、
それだからこそ、
こうした本の、こうした部分に価値が見いだされているのだ、という楽しさがある。
と同時に、
いやはや、昔はほんとうに様々な(大量には売れそうにない)本が、
丁寧な装丁で刊行されていたのだなあと感心してしまう。
振り返ってみれば、昨今、函装の本なんて滅多にないのではないか。

また、電子書籍と紙本との攻防が言われて久しいが、
本書をみると、やはり紙本の方が「残る」のだろうなあ、と痛感する。
こうして蓄積することが、やはり文化の厚みになるのだから、
紙本というのは捨てることはできない。

さて、本書には東西の古書店が収録されているが、
地方住みの僕が行ったことがあるのは、神田の古書店街(鳥海書房に行った)、
倉敷の「蟲文庫」と「万歩書店」。

蟲文庫は、「苔とあるく」(レビューはこちら)や「亀のひみつ」(レビューはこちら)、
わたしの小さな古本屋 (ちくま文庫)」(レビューはいずれ)といった著書もある、田中美穂氏のお店。
とても雰囲気の良い、気持ちいいお店だった(訪れた時の記事はこちら)。

一方「万歩書店」は、その圧倒的な分量に圧倒された記憶がある。
「万」歩くから「万歩書店」とのことだが、さもありなん。

あと、堀辰雄文学館の前に開店された「追分コロニー」は、気になる古本屋。
僕は学生時代は堀辰雄を専門にしていたし、
堀辰雄文学記念館は、開館日の第1号入館者なのである(記事はこちら)。
これは行かねばなるまい。


などなど、
たぶん古本好きなら、何かしら楽しめる要素があるのではないだろうか。
精緻に描きこまれた店内図を見ているだけでも楽しく、
じっくり味わうことができるだろう。





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category: 読書

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ビーカーって、なんで「ビーカー」っていうの?「ビーカーくんとそのなかまたち: この形にはワケがある! ゆかいな実験器具図鑑」  

ビーカーくんとそのなかまたち: この形にはワケがある! ゆかいな実験器具図鑑
うえたに夫婦/山村紳一郎



理科室に入ると、ワクワクしたものだ。
日常では使わない器具、
棚の中の不可思議な薬品、
そして小学校の頃はアルコールランプ、
中学校からはガスバーナーに誰もがときめいたのではなかろうか。

だが、残念ながら器具について細かく教えてくれるのは顕微鏡程度であって、
ビーカー、メスシリンダー、バネばかりなどは、
「実験器具として当たり前のもの」として、たいして細かく説明もされなかった。

そこに何だかモヤモヤを抱いていたのだが、本書を読んで分かった。

それぞれの器具の目的、それによる扱い方の差、
そこから生じるバリエーションなど、
「実験器具ならではの面白さ」が在るのに、それを教えてくれなかったのだ。

本書は、タイトルにもあるビーカーだけでも、
普通のビーカー、コニカルビーカー、トールビーカー、手つきビーカー、ステンレスビーカー、
ホーロービーカー、石英ガラスビーカーが紹介されている。

これだ。
このバリエーションと細かさ、すなわちマニアックさが、あの頃の理科教育には欠けていたのだ。

それを補完して余りあるのが、本書である。

それぞれの実験器具を擬人化し、その用途や特徴を解説。
基本的に紹介本なのであまり細かいエピソードはないが、
理系の実験屋がよく体験するだろう失敗談なども書き込まれていて、
見知らぬ世界を楽しむことができる。

また、とても平易なつくりなので、
小学校高学年や中学生だと、より身近な話題として理科に興味が湧くのではないだろうか。

続編として、「ビーカーくんのゆかいな化学実験: その手順にはワケがある!https://amzn.to/2TI5eVI」もあるようだが、
こちらも楽しそうだ。

誰もが一度は通過した「ビーカー」との再会に、
心ふるえる筈である。


【目次】
1 ビーカーくんとその親戚
2 容れるなかまたち
3 はかるなかま
4 流すなかまと洗うなかま
5 熱するなかまと冷やすなかま
6 観察するなかま
7 電気と磁力のなかま
8 実験室のサポーターたち
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category: 技術

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知られざる日本の伝統文化が、明らかになりつつある。「茶の湯の羽箒 知られざる鳥の文化誌」  

茶の湯の羽箒 知られざる鳥の文化誌
下坂玉起




僕は鳥屋だし、羽根も集めている。
先日観察会で見せたアオバズクの羽根をお見せしたが、
それは1993年に拾ったもの。だから、「羽根屋」としても、20年以上のキャリアがあるはずだ。

だが、「羽箒」という道具が在ることすら、知らなかった。

羽箒とは、茶道で用いる道具の一つ。
「羽根でできた箒」というと、鳥の翼のような形をした羽箒を思い浮かべる。

確かに、茶道でも翼のような羽箒はあるが、それは座箒(ざぼうき、ざぼう)や掃込(はきこみ)などと呼ばれるもので、
羽箒とは形態も用途も全く異なる。

羽箒とは、一枚ないし三枚の羽根(内側の初列風切や次列・三列風切)を重ね合わせたもの。
一枚のものを一ツ羽、三枚のものを三ツ羽と呼ぶが、
最もよく使われるのは三ツ羽のもの。よって、羽箒といえば基本的に三ツ羽を指す。

バードウォッチャーでもあり茶道も嗜む著者は、この羽箒が「何の鳥か」という興味から、
誰も系統だって調べたことがない羽箒の世界を、初めて切り拓くことになった。

羽箒は、本来は茶人自らが造るもの。
当初一ツ羽だったが、利休が三ツ羽を創始したと言われるくらいだから、
その歴史性が伺われる。

ところが、これまで羽箒が文化的に探られることはなかった。

それは、それぞれの茶人にとっては当たり前のもの、だからだ。

ところが著者が調べていくと、その羽根の選び方、重ね方、
柄になる竹皮の素材、包み方、末端の処理、包んだときの端の位置、
紐の結び目の位置、柄と羽根の間の羽弁がない長さなど、
極めて細部にわたって違いが発見される。

それはすなわち、各流派の伝統であり、祖の好み、美意識が反映されたものだ。

だが、各流派の茶人自身は、そうした差異を認識する機会少ない。
唯一それを知るのは、千家十職(三千家(表千家・裏千家・武者小路千家)に出入りする塗り師・指物師など十の職家)のうち、
羽箒を担当している飛来一閑(ひきいっかん)家や、羽箒師の杉本鳳堂家など、
茶道を横断的に見ることが可能な一部の人だけだった。

それが、著者は、その熱意と努力によって多くの茶人や職人に会い、
羽箒の世界を一つ一つ明らかにしていく。

その歴史、使われている羽根の種類、前述のような構造の差異と意味、各流派での使途等。

多大なフィールドワーク、細かな観察、慎重な判断に裏付けられながら、
本書では著者が得た知見が、明瞭に整理されながら提示されていく。
安心して未開の知識を楽しむことが可能だ。

さて、鳥屋としては、やはり鳥種に興味がいく。
現在の千家の羽箒は、おおむね七寸八分(約23.6cm)。かなり大きい。
風切で20cm超となると、やはりツル、ワシタカ類が思い浮かぶ。
実際、著者の調査では、各種ツル類、コウノトリ、セイラン、ペリカン、
イヌワシ、オジロワシ、セイラン、ノガン、ワシミミズクなど。
江戸期まではノガンやワシミミズクも多いようだが、

ノガンについては、「本朝食鑑」に今の佐賀・長崎・熊本・福岡あたりに最も多いという記述が有ったり、
「本草綱目啓蒙」では「曠野ニ群飛シテ列ヲナス」と記載があるように、
江戸期にはかなり渡来していたらしい。

またワシミミズクについては、江戸期の茶道の文献において、
羽箒の素材として
「松前ふくろ」・「嶋ふくろ」・「南部ふくろ」といった呼称が使い分けられているが、
このうち「嶋ふくろ」がシマフクロウ、
「松前ふくろ」と「南部ふくろ」がワシミミズクを指すのではないか、と指摘している。
ワシミミズクは、現在は北海道において極めて少ない留鳥とされているが、
江戸期の個体数、そして仮に飼育できれば換羽を拾うことが可能になることから、
一定量の供給は確保できたのだろう。

本書ではこうした野鳥のトピックスのほか、
戦前の日本における流行、現在の羽箒の素材の入手の困難性等も指摘していく。

おそらく羽箒について系統だった調査ができ、
しかも一定量の製作を続けていた職家らにも話を聞けるのは、今ががラストチャンスだろう。

そうした時期に、このような調査がなされ、
その結果が公刊されるのは、まさに僥倖というべきものである。

茶道という日本文化を代表する芸道において、
一つの道具にも、これほどの創意工夫と伝統があることを知らしめる、
素晴らしい成果である。
鳥屋のみならず、多くの方が楽しめるだろう。

【目次】
1章 羽箒にひかれて
2章 茶の湯の羽箒
3章 茶人と羽箒
4章 羽箒を結う
5章 羽箒を使う
6章 羽箒の羽とその鳥たち
7章 羽箒から見える日本人と鳥の関係史
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category: 技術

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