ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

研究者をバックアップする体制があってこそ。「「研究室」に行ってみた。 (ちくまプリマ―新書)」  

「研究室」に行ってみた。 (ちくまプリマ―新書)
川端 裕人



人類が他の生物と異なるのは、その個体が得た知識(経験も含む)を、
距離・時間を超えて伝達するという点だ。
伝達メディアが声、文字、写真、動画と進み、その方法もアナログからデジタルへと転化した。
その繰り返しが伝達する知識を飛躍的に増大させ、次代は更に高みを目指す。
その営みの結果こそが人類史である。

そして、先人の知識を踏まえて次を目指す営みを、研究というのだろう。

研究がなければ、何も改善されない。
そう考えれば、「研究なんて何の役に立つの」という問いがいかに愚問か分かるだろう。

ただ残念ながら、そうは言っても現在の日本で、研究のみを生活の糧とすることは難しい。

だからこそ、より多くの人々が「研究すること」の価値を再確認し、
「研究者を目指す若者」を造り、バックアップする社会を構築する必要がある。

本書は、ナショナル・ジオグラフィックに連載されたインタビューから、
6人を抜粋したもの。
優れたロールモデルとして、ぜひ若い人と、社会的・経済的影響力のある層が読むべきだろう。

というのも、巻頭に収録されているのが、「バッタを倒しにアフリカへ」(レビューはこちら)で話題をさらった前野ウルド浩太郎氏だからだ。

本書や「バッタを倒しにアフリカへ 」でも記されているが、
前野氏は蝗害を引き起こすバッタ、中でも最大規模のスケールとなるサバクトビバッタの研究者である。
アフリカのバッタの研究が何の役に立つのかという人もいるだろうが、
日本における蝗害防止・駆除の参考ケースとして、またアフリカでの蝗害防止による地域の安定化等、メリットは多々ある。
だが、そうしたメリットがあり、前野氏が数少ないバッタを指向した研究者であるにも関わらず、
その研究生活は、安定していない。

本書では一方で、宇宙旅行を目指すためのエンジニアである高橋氏の事例が紹介されているが、
その活躍の場(複数企業)はアメリカであり、日本ではない。

実は本書収録の6人のうち、
潜在的無職(前野氏)、外国での研究者、外国でのエンジニア、日本でのエンジニアが1人ずつ。
日本での研究者は2人に過ぎない。

このインタビューは刊行時点で40人以上になしているということだが、
そのうち著者が分野のバランス、インタビューでの出来を勘案して選出した6人がこういう構成だというのは、
かなり象徴的である。

つまり、日本は「面白そうな研究者」を、全て国内で養い得る状態には、無い。

本書はぜひ若い人が読んで、研究者を目指してもらいたい。
その結果として、外国のエンジニアや研究者というのもあるだろう。
だが、「外国に出なければ研究できない」という状態は、おかしい。

日本が現在と同水準かそれ以上の生活水準を保ちたいのならば、
「研究」を疎かにする社会構成は、ありえない。
だからこそ、本書は経営者が読み、国内の研究環境を整える(会社内にせよ行政に求めるにせよ)参考となるべきである。


【目次】
砂漠のバッタの謎を追う―前野ウルド浩太郎(モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所)
宇宙旅行を実現するために―高橋有希(宇宙ベンチャー開発エンジニア)
生物に学んだロボットを作る―飯田史也(チューリッヒ工科大学バイオロボティクス研究室)
地球に存在しない新元素を創りだす―森田浩介(理化学研究所超重元素合成研究チーム)
宇宙エレベーターは可能である―石川洋二(大林組エンジニアリング本部)
すべては地理学だった―堀信行(奈良大学文学部地理学科)
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category: ノンフィクション

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河童図、天狗の骨、供養絵額。「荒俣宏妖怪探偵団 ニッポン見聞録」  

荒俣宏妖怪探偵団 ニッポン見聞録
荒俣 宏,荻野 慎諧,峰守 ひろかず



博物学者というより「博物学」学者の感があるが、
それでも図抜けて横断的知識を持つ人である。
特に、政治経済的といった実社会的な知識ではなく、
民俗学やオカルト知識である点が良い。
そっち方面について大量の知識を持ちながらも、
その思考はオカルトとは一線を画している。
こうした才人がいることは、現代日本の幸福である。

その荒俣氏が、東北を練り歩く。
縦軸は妖怪、横軸は民俗学である。
同時に、宮沢賢治―南方熊楠、柳田國男―佐々木喜善といった人の繋がりにも焦点をあて、
何かを「解明する」というよりも、
こうした視点から岩手の妖怪遺物を見て歩く、といったもの。

それでも荒俣氏が足を運ぶだけあって、
出てくる妖怪遺物も興味深いものばかり。

多種多様な河童図、天狗の牙、天狗の骨、
カメ化石、岩手中央部だけで一時期流行った供養絵額、
方斎の幽霊画、死者が朽ち行く様を描いた九相図等々。

カラーの図版も多く、見るだけでも楽しくなる。
また、それぞれの来歴を踏まえながらも、
荒俣氏や同行の諸人が"ブツ"を客観的・冷静に分析するのも楽しい。

例えば「天狗の骨」は、実はイルカの骨であった。
だがそれで終わるのではなく、
どうしてイルカの骨が「天狗の骨」と誤解されたかとか、
平賀源内も「天狗の骨」=イルカの骨と分かっていたが、
あえて「天狗の骨」としておこうとしたのではなど、
その"ブツ"の背後を推測していくところが、荒俣氏らの視点で楽しいところである。

惜しむらくは、本書が峰守ひろかず氏が同行の語り部となって書下ろしているものであり、
現場現場の荒俣氏や諸氏の語りを再現している点。
もちろん臨場感があって楽しいのだが、
たぶん荒俣氏が直接筆を執ったら、より広範雑多な広がりをみせただろう。
(まあ、昨今の荒俣氏のメディア露出からすると、そんな時間はとれないだろうが。)

宮沢賢治―南方熊楠の繋がりにしても、
それがあったという手掛かりは随所で示されるものの、
荒俣氏が最初のそれを着眼した契機とか、本書以外での分析・考察等は示されておらず、
全般的に消化不良というか物足りない感じがする。

ただそれでも、岩手県の様々な「奇妙なモノ」を巡りながら、
豊富な知識に裏付けられた雑談を読むのは、楽しい時間である。
ちょっと変わった紀行文として、気軽に読むことをお勧めしたい。

それにしても、荒俣氏がいなくなったら、
こういう立場と知識から解説するの、誰が跡を継げるのだろう?

【目次】
第1章 探偵団、まずは岩手で妖怪を考える
対談 宮沢賢治×南方熊楠談義―岩手と和歌山をつないだ超絶な日本人
第2章 地獄と極楽、この世とあの世。探偵団、死後の世界を歩く
第3章 君はもう見たか!?好奇心が爆発する殿様の博物コレクション
第4章 対談 京都vs東北―中央から見た鬼の国
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category: ノンフィクション

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人類の悲劇を見に行く旅。「ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅」  

ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅
風来堂



正直なところ、「◯◯ツーリズム」という言葉は好きではない。

ある一定層の興味関心を、実際は多彩な観点が有るのに
安易に「◯◯ツーリズム」とまとめたり、
逆に「◯◯」というテーマに対する旅行ニーズの有無も不明確なのに、
「◯◯ツーリズム」として町・村起こしの手段として提起されるなど、
どうも言葉と実態が乖離している感があるためだ。

このダークツーリズムという言葉もそういう雰囲気を漂わせているが、
どうも数年前から欧州あたりで流行りだしているらしい。

負の遺産を見る旅と言ったら分かりやすが、
実は「負の遺産」という言葉は日本独自のものと本書で指摘されている。
(なのにタイトルに用いるところが、ちょっと解せないが。)
だからダークツーリズムを定義するなら、
「戦争や災害をはじめとする悲劇の記憶を辿る旅」(本書p17、井出明教授)ということである。

旅の目的地は広島の原爆ドームやアウシュビッツ収容所跡等。
そう言われれば「真面目な動機」なのだなと分かるが、
そうしスポットに特化した旅である。

いわゆる怖いもの見たさや興味本位の「廃墟めぐり」「事件現場めぐり」とは全く違うが、
それらとは違う旅なのだと主張するにも、
「ダークツーリズム」という言葉は今後よく使われるのではないだろうか。

本書は、大きく日本、欧米、アジアに分け、全81カ所を紹介する。
1か所につき5~6p。
世界各地に跨るためか書き手は様々であり、レポートする視点、感じ方もバラバラである。
(編著が風来堂という編集プロダクションであり、
こういうテーマでの企画がまず在り、そこから原稿を集約していったのだろう。)

よって、いろいろなスポットを紹介するという体裁は整っているものの、
テーマがテーマなだけに、
個々の紹介では個人的な視点が強調されるという、ちょっと中途半端な本にも感じる。
例えば地域で分類しているのは旅行ガイド的視点。
でも、戦争関係と事件関係、政治的紛争地を並列で並べられると、やっぱり興味本位の感が強くなる。

このあたり、どう整理していくかは今後の課題だろう。

とはいえ、
一度は聞いたことがあるスポットにしても、実際に足を運んだ人のレポートを読むと、全く印象が異なる。
またこれだけの量になると、知らなかったスポットも多数掲載されている。
特に戦争関係や虐殺関係となると、「知らなかった」ではすまされない重みがある。
「ダークツーリズム入門」というタイトルはともかくとして、
読んでおいて損は無い一冊である。


【目次】
・井出明さん(追手門学院大学教授)インタビュー
・Part1 日本篇
・Part2 欧米篇
・角田光代さん(作家)インタビュー
・Part3 アジア・アフリカ篇
・下川裕治さん(旅行作家)インタビュー
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category: 旅行

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ゴミを侮ってはいけない。「平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)」  

平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)
文化財研究所奈良文化財研究所



1か月間の、自宅のごみの中身をチェックされると、
私生活が相当暴かれるだろう。
ごみは、人々の生活を映す鏡である。

ただ最近は、分別や焼却・リサイクルが進んだために、ごみがそのままの姿で残ることは少ない。
それが救いでもあるが、
では過去のごみは、何を物語ってくれるのだろうか。

本書でテーマとするのは、途中断絶があるものの、
710年から784年まで日本の中心地であった平城京のごみである。
今から1300年前、人々はどのように生活していたのか。

本書は全ページカラー、多数の写真を用いて、発掘された数々のごみを紹介する。
ごみといっても、考古学的資料には変わりはない。

食器や容器といった、日常生活の中で生じたもの。
瓦や屋根の装飾金具など、建物の解体過程で生じたもの。
そして木簡の表面を削ったもののように、公的な仕事から生じたもの等、
由来は様々だ。

だがそれだけに、社寺や家屋で大切に保管されて伝来したものとは異なり、
当時の人々の生き様が、具体的に視えてくる。

例えば木簡の削りかすだ。
使用済みとなった木簡は表面を削って再利用していたのだが、
その削りかすが幸いにも遺る場合がある。
そこから長屋王住居のように、邸宅の持ち主を特定する一級史料が得られることもある。
一方で、当時の顔の落書きや、文字の練習なども残っており、
現代人と同じく仕事に飽きたり、苦労した人々の息遣いが聞こえそうだ。

またごみの中のごみ、当時のウンチも立派な資料となる。
もちろんブツそのものが残っているわけではなく、その痕跡が残っているわけだが、
僅かに残る骨や植物のタネ、そして寄生虫の卵などから、
当時の食生活が解明されていく。
例えば平城京の役人が働いていた場所からは、
その寄生虫から、イノシシやブタを食べていたことが判明している。
実際、天武天皇時代(7世紀後半)には「牛、馬、犬、サル、鶏の肉食を禁ずる」旨の詔が出されているが、
その代わりにイノシシ・豚は食っていたことが裏付けされたことになる。

こうした知見は、その一つ一つは小さなものでも、
数百年前の人々の生活を明らかにする手掛かりとなる。

政治や貴族の世界は文献に記録されるが、
その周囲には、記録もされない多数の人々が生き、日々を懸命に暮らしていた筈だ。
本書は、その名もない人々が生きた痕跡を知る、楽しく重要な一冊である。

【目次】
第1章 奈良時代のごみと出会う
 ごみから生活がわかる
 平城京はどのような都市だったのか?
 発掘現場から出てくるモノ
 平城京のごみの捨て方
 平城京、平城宮マップ
第2章 ごみ捨て場をのぞいてみよう
 あんなごみこんなごみ
 ごみにも個性がある
 奈良時代のリサイクル術
 奈良時代のおまじない
第3章 木簡は奈良時代からの手紙
 人々の息吹を伝える木簡
 木簡大図鑑
 平城京遷都のナゾを解く手がかりにも!?
第4章 ウンチでわかる食生活
 奈良時代人の食事
 奈良の都のトイレ事情
 ウンチが解き明かす食生活
第5章 ごみは宝物
 「ごみってなんなんやろ」―特別対談・ゴミドコさん×考古学者けいじくん
 ゴミドコさんの正体は?!
 ごみを科学する
 平城京のごみを輝かせる仕事―奈良文化財研究所
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category: 歴史

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この一冊で全てが分かる。「オオグソクムシの本」  

オオグソクムシの本
森山徹



以前、5年絶食していたダイオウグソクムシが話題となって記憶があるが、
そのお仲間で、より身近なのがオオグソクムシ。
どれくらい身近かというと、楽天で買える(2018.5現在)。


あと、焼津市へのふるさと納税で貰える。
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/22212/368585

また、動画を検索してみると、生体よりも「食べてみた」という映像が多い。日本人って…。

ともかく、巨大なダンゴムシ的風情があるが、実際は甲殻類。
世界に18種が存在し、うち8種は体長500mmまでの超巨大種である。

また、ダイオウグソクムシやオオグソクムシは二つの黒い眼が可愛いが、
中にはそれらが一つになったメナガグソクムシやブユノメグソクムシなどもいる。

その中でも、オオグソクムシ属は世界中に分布し、
中でもオオグソクムシは日本の江の島付近で採集された個体がタイプ標本と、
極めて日本に縁が深い種なのである。

そのオオグソクムシについて、
とにかく知り得る全てを網羅したのが、本書。
外観では、その脚の構造、腹部などの各節の解説はもとより、
遊泳の様子、産卵(腹にできる覆卵葉という器官に産む)など。
内側では、実際の解剖写真を用いながら消化器や心臓など、
これでもかと細かい部分まで紹介される。
生殖方法、神経系に関する知見も詳しい。

かと思えば、過去のオオグソクムシ研究史を紐解きながら、
その時々に解明され様々な生態も解説。

また、オオグソクムシは巣穴を掘るが、それもフラットな底ではなく、
何らかの物体が在る環境、
自然環境でいえば鯨骨があるような環境でこそ、落ち着いて深い穴を掘るといった点を解明するまでの試行錯誤の数々等、とにかくオオグソクムシについて知り得る全てを網羅しておこうという意気込みに溢れた一冊である。
その上で、巻末には引用文献の一覧もついていて、
原著論文にあたりたいという奇特な方への配慮もばっちり。
おそらく今後、オオグソクムシについて知りたいと思う場合には(どんな場合だ)必須の書である。

【目次】
第1章 入手―長兼丸乗船記
 ファースト・コンタクト
 出立
 対面
 出航
 漁果
 本命
 乗船後記
第2章 オオグソクムシのかたち―その外側と内側
 魅力
 価値
 分類
 その外側
 その内側
第3章 研究―オオグソクムシ・フリークたちの足跡
 歴史
 分布
 循環系
 成長、繁殖、栄養摂取
 化石
 行動
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category: 甲殻類

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