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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

氷河で発見された、遥かな過去の男。「5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎」https://amzn.to/2QEBkBJ  

5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎
コンラート・シュピンドラー

5000前.jpg

ヒトも含め、動植物遺体は通常、早々と失われてしまう。
それが自然によるものか埋葬によるものかは別として、
過去の遺体が現代にまで遺ることは、本来極めて稀だ。
だからこそ、エジプトのミイラを始め、
世界各地に遺るミイラ―何がしか、骨以外の組織が残る遺体-は、
遥かな過去に生きたヒトの姿を現代に伝えてくれる。

その中でも、センセーショナルと言って良い遺体が、
本書で取り上げられるアイスマン(通称エッツィ)である。

1991年、アルプス山脈のイタリアとオーストリア国境にあるエッツ渓谷で、
彼は氷河の中から見つかった。
調査の結果判明したのは、それが約5300年前(紀元前3300年頃)の男性であったことだ。

約5000年。古代エジプト文明やメソポタミア文明など、
初期の文明が現れ始めた頃に、彼はアルプスで暮らしていた。

本書は、その発見の経緯から、1994年の刊行までに判明した事実を収録したもの。
カラー図版も多く、
また、第3章の様々な遺物、第4章の服装、第5章の遺体そのものの紹介などは、
この遺体と諸遺物が、
いかに「5000年前のくらし」をタイムカプセルのように閉じ込めたかが実感できるだろう。

特に、本書によると、この氷河からアイスマンが発見できただろう機会は、
死亡後5000年のうち、数日間しかなかったようだ。本当に奇跡的な発見なのである。

また、同時に本書では、こうした予期せぬ発見に際し、マスコミや企業、自称研究家が盛り上がり、
混乱を招いた事実も記録されている。
著者の苛立ちが感じられるが、こうした事実を伝えることも、
第2、第3のエッツィ並の大発見に対して重要だろう。

ただ、残念な点は、如何せん本書の刊行が古いこと。
発見から約3年という一区切りとして刊行されたことは高く評価できるが、
本書で推測された凍死という死因は、
2001年以降、様々な外傷や致命傷となった脳内出血の痕跡が確認され、
部他殺であることが確認されている。

こうした新発見・新解釈を含めた最新の分析が読みたいのだが、
残念ながら未だ刊行されていないようだ。

このため、本書を読む際には、その分析・推理の部分は、
一定程度昔のものであることを認識しておく必要があるだろう。
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category: ノンフィクション

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多くの死刑囚と対話し、最期を見送った教誨師の苦悩。「教誨師」  

教誨師
堀川 惠子



(文庫)


「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
(宗教上の儀式行事及び教誨)
第六十八条 刑事施設の長は、被収容者が宗教家(民間の篤志家に限る。以下この項において同じ。)の行う宗教上の儀式行事に参加し、又は宗教家の行う宗教上の教誨を受けることができる機会を設けるように努めなければならない。」


「教誨」とは、本書が引いた資料によると、「収容者を訓し導き、善にたちかえらせること」という。

罪を犯した者に対して、宗教が手を差し伸べる。
また逆に、受刑者が宗教にすがる場合もあるだろう。
外界と隔絶された刑務所という空間において、その役割を担うのが「教誨師」である。

受刑者が対象というだけでも、一般的な宗教活動とは異なる困難性が想像されるが、
本書のテーマはその中でも、死刑囚に対する教誨、である。

既に死刑という極刑が確定した死刑囚において、
希望や救い、反省、善への復活などが成し得るのか。
様々な難しさがあるが、
しかし、教誨師は、一人の人間として死刑囚に向き合い、対話を行っていく。

何ができ、何ができないのか。

第三者からは全くうかがい知れない話であり、
また、死刑に関する情報が秘匿されている日本においては、
その役割、重要性、成果、悩みなどは一切オープンになっていない。

その中にあって、一人の教誨師、
しかも全国教誨師連盟元理事長という、
教誨師の中でも相当の経験と見識を持つ 人物が、
その生涯の苦悩を語った。
それが、本書である。

語られるのは、浄土真宗の渡邉普相氏。
「この話は、わしが死んでから世に出してくださいの」という言葉と共に語られた、
死刑囚との対話、死刑の事実、そして教誨師としての苦悩は、
極めて重い。

だが、本書がなければ、この事実は決して世に出なかったことを考えれば、
「絞首刑」という手法での「死刑」が存続している日本において、
本書は非常に重要な意味を持つ。

真っ当に生きていれば、通常は全く関与することがない「死刑」という世界。
だからこそ、知らずに済ませることも可能なのだが、
一方、「死刑」が我々の生活の延長線(はるか遠くとしても)にあることも、事実である。
死刑という現実を知るためにも、本書は読み継がれるべき本だろう。
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category: ノンフィクション

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古びたラベルが示す、明治日本のナチュラリストたちの交流。「アラン・オーストンの標本ラベル」  

アラン・オーストンの標本ラベル
川田 伸一郎



生物標本は、時を超える。
学名をつける基礎となったタイプ標本はもとより、「集める」ことが主目的であった西洋の博物学では、
とにかく世界各地の標本にラベルを付し、遺すことに価値がある。

そのおかけで、シーボルトが持ち帰った日本の様々な遺物が残っているし、
彼らが命名した日本産動植物のタイプ標本を、今でも研究できる。

こうした有名どころだけでなく、様々な動植物の標本が、世界各地に残っている。
そこで研究者はその標本を調査するわけだが、
通常はあまり取り上げられない事実が、そこに潜んでいる。
その標本も、「誰かが」採集したものだ、ということだ。

その採集者や経緯については、通常の生物研究では大きく取り上げられることはないが、
しかしながら各地域の研究史を把握するうえで、こうした採集史を欠くことはできない。

標本に付されたラベルは、その標本採集史を紐解く最大の手掛かりなのだ。

本書の主役は、アラン・オーストン。
鳥屋であれば、オーストンウミツバメ、亜種オーストンオオアカゲラ、
細かいところでは亜種オーストンヤマガラで名前に馴染みがあるのではないだろうか。
(ちなみに最近よくTVで取り上げられるゴブリンシャーク、ミツクリザメも、Mitsukurina owstoniと、
オーストンに献名されている。)

アラン・オーストンは、鳥類を主とした標本収集家にして、標本商。
その活躍が上記の鳥名にも遺っているのだが、
その実像については、鳥屋もあんまり知らないと思う。

本書は、著者がイギリスで見たモグラの標本に付されたラベルから、
アラン・オーストンの日本での活動を探っていく物語。

まるで推理小説を読むかのように、次から次へと新事実・新発見がある。
また、各章にはその時点で解明された人物相関図も掲載されており、
これまた良質の推理小説っぽいのである。

これほど大規模な物語でなくても、実は各都道府県にある標本についても、
その発見の歴史、物語は興味深いものが多い。
香川県でもそのような標本がいくつかあり、いつかその標本が得られたストーリーを辿って行きたいと思っているが、
まだ果たせていない。

日本における標本採集史は、ほとんど手が付けられてない領域である。
本書を機に、盛り上がることを期待したい。
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category: 野鳥

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ひとつの傑作銃が、世界を変えた。「カラシニコフ」  

カラシニコフ
松本仁





カラシニコフ。正式な名称はAK-47、ソ連(当時)のミハイル・カラシニコフが設計し、
1949年にソビエト連邦軍が制式採用した自動小銃だ。

誰でも整備が容易にでき、また過酷な戦場で整備なしに使い続けても故障しない信頼性と耐久性。
冷戦時代には世界108ヶ国に輸出され、
その性能の高さから世界中の-特に金のない-軍隊や武装勢力に愛用された。
「世界で最も多く使われた軍用銃」とも言われている。

そのカラシニコフは、いかなる思想で生まれたのか。
そして、なぜ世界の紛争地に溢れ、
カラシニコフを手にとった人々により、いかなる状況が生み出されているのか。

本書はカラシニコフ-AK-47という卓越した銃を軸として、
いわば世界の紛争を見るものだ。

本書で驚くのは、カラシニコフという銃の性能もさることながら、
その性能に注目したソ連(ロシア)以外の第三者によるカラシニコフの生産だ。
北朝鮮、中国、アフガニスタンでカラシニコフは生産され、
様々な生産国の偽装をされ-時には堂々と何の刻印も無く-流通する。

中には、アメリカのライフル業者すら、その流通の仲介を行っているという。

それほどの生産と流通ネットワークが成立するほど、カラシニコフは必要とされている。

日本では全く意識しないが、世界で見れば、
一般市民が武装なしに生活することが困難な地域は、依然として多い。

そのような地域なおいては、カラシニコフは「必需品」なのだ。
そして必需品であるがゆえに、世界には、その兵士数以上のカラシニコフが溢れている。

本書は2004年刊行。今から20年近く前とはいえ、
掲載された地域の情勢は、ほとんど変わらない。

それどころか、新たな紛争地も発生しつつある。

そのような地で、カラシニコフはまだあるのか。
また、各地のカラシニコフ製造者・流通者は、どのような状態なのか。

本書を読めば、世界の紛争については、また違った視点が得られるだろう。
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category: 技術

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日本のアンモナイト化石の多様性に、驚愕。「日本のアンモナイトー本でみるアンモナイト博物館」  

日本のアンモナイトー本でみるアンモナイト博物館
大八木和久



化石と言うと、どうしても「博物館で展示されているもの」であり、
あまり身近なものとは感じにくい。

だが、実は日本各地で化石は産出しており、
探したいと思う熱意と努力が有れば、自分の手で古代の生物に出会うことは可能だ。
その「気持ち」を興してくれるのが、
日本全国化石採集の旅―化石が僕を呼んでいる」(レビューはこちら)シリーズである。

このシリーズによって、化石は身近な宝だ、ということは、つくづく実感できるし、
化石を掘る (ちくま新書)」 (レビューはこちら)によって、
大八木氏のように精力的に発掘はできないだろうけれど、チャレンジしてみようかという気にもなってくる。
(僕もいつくか見つけている。その成果については過去のレビュー(これとかこれ)に掲載。)

なかでも、日本で特に魅力的なのがアンモナイト。
「異常巻きアンモナイト」と呼ばれる奇妙な形状のアンモナイトは、「ニッポニテス(Nipponites)」という名前通り、
日本を代表するアンモナイトですらある。

また、一見同じように視えるアンモナイトも、当然ながら様々な種を含んでいる。

本書はそうしたアンモナイトについて、著者が発掘した多種多様な資料をカラーで掲載し、
解説を付したもの。
選りすぐりの逸品だろう、全てが美しく、圧倒される。
特に産地が明確に記載されており、日本でもこんなに魅力的な化石が産出するということが実感できる。

また、発掘から標本化の手順、主な産地(特に北海道では詳しい)も掲載されており、
熱意があれば、著者に続くことも十分可能だろう。

なお、Amazonの本書紹介ページを覗くと、さらっと
「2020年5月26日、北海道苫前町の海岸(第三紀鮮新世:遠別層)で、海牛(かいぎゅう)の化石を発見しました。体長約8m 、ほぼ全体が残っていると想像される大海牛の化石です。未だ発掘には至っていませんが、近いうちに大きなニュースとなることは間違いありません。じつに楽しみです。」
とのコメントが記載されていた。まだまだ著者は驚かせてくれるのである。



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