fc2ブログ
ちょっとヨクナレ ~読書と日記~ ホーム »
最近の記事

探しもしないで、絶滅と言うべきではい。「ニホンカワウソは生きている」  

ニホンカワウソは生きている
宗像充



本書では、2017年に高知県大月町で観察・撮影されたニホンカワウソ?の写真や、
それを得るまでの過程も詳しく紹介されている。

また、その動画も著者がYOUTUBEにアップロードしている。





残念ながら決定的に見やすく明瞭とまではいかないが、
ニホンカワウソを狙って撮影されたこの生物が何か、を解明することは非常に重要である。


さて、日本で絶滅した哺乳類として、環境省は7種(1亜種を含む)を掲げている。

オキナワオオコウモリ Pteropus loochoensis
ミヤココキクガシラコウモリ Rhinolophus pumilus miyakonis
オガサワラアブラコウモリ Pipistrellus sturdeei
エゾオオカミ Canis lupus hattai
ニホンオオカミ Canis lupus hodophilax
ニホンカワウソ(本州以南亜種) Lutra lutra nippon
ニホンカワウソ(北海道亜種) Lutra lutra whiteley

コウモリ3種と、オオカミ2種、そしてニホンカワウソ(2亜種)だ。
だが、このうちニホンオオカミと本書のテーマであるニホンカワウソについては、
未だ絶滅していないのではないか、との主張が続いている。

これらの絶滅していないという主張については、大きく2つのポイントがある。
一つは、目撃情報があること。
もう一つは、きちんとした調査がなされていないことだ。

本書では、このうちニホンカワウソについて、
「見た」「撮影した」という人々の証言、状況などを整理するとともに、
同時に、日本各地において、子どもの頃に見た、死んでいるのを見た等の埋もれていた証言を掘り起こしていく。
その結果、実は日本では、まだ絶滅していないのではないか、という見解を発展させていく。

ただ一方で、同時に、ユーラシアカワウソの研究者らにも取材し、
朝鮮半島にいるカワウソの習性等を踏まえながら、
研究者らの、日本では韓国のように痕跡がない=絶滅したという論も紹介しており、
一定のバランスは保たれている。
本書を読み、どう判断するかは、読者の野生動物や絶滅に関する知見に左右されるだろう。

ただ、ニホンカワウソとニホンオオカミの双方について、
「絶滅している」という論は、実はかなり机上の(空論とまでは言わないが)根拠に拠っている。

そもそも、ニホンオオカミもニホンカワウソも、実は生きている間には
生物学的にきちんとした研究がなされていない。
いくつかの剥製や骨格標本等が残っているだけであり、
それらについても、「どのような生物学的特徴があり、他種と識別されるのか」という検証は、
実はなされていない。

すなわち、「これを確認すればニホンカワウソ/ニホンオオカミ」という説明を、
研究者でもできない状況にある。

このため、どんなに目撃情報や写真が出て来ても、
専門家は「情報不足なので判定できない」という結論になる。
これを、多くの人々は「目撃情報等が正確でないため情報不足」と捉えがちだが、
じつは「判定するための情報不足」なのだ。
これでは、どんなに鮮明な写真があろうと、識別はされない。
ニホンカワウソについては、死体が回収されれば別だろうが、
ニホンオオカミについては、死体があっても識別されないのではないだろうか。

また、一方、本書でも指摘されているのが、
そもそも「絶滅した」という根拠の不足である。

環境省は野生絶滅の定義として、
【確実な情報があるもの】
①信頼できる調査や記録により、すでに野生で絶滅したことが確認されている。
②信頼できる複数の調査によっても、生息が確認できなかった。
【情報量が少ないもの】
③過去50年間前後の間に、信頼できる生息の情報が得られていない。
を挙げている。

まず、ニホンカワウソにしてもニホンオオカミにしても、
生息状況を把握するための網羅的・集中的な調査はしていないので、
①と②は該当しない。

結局、環境省は③に基づいているのだが、
「信頼できる情報」は研究者の判定だろうから、
前述のとおり、いかなる研究者も自信をもってニホンカワウソ/ニホンオオカミと識別できない状況に在っては、
絶対に③の「信頼できる生息の情報」は成立しない。

また、ニホンオオカミは1905年または1910年が最後の記録なので、体裁は整っているものの、
ニホンカワウソについては1979年の記録が最後であり、
まだ50年を経過していない2012年に絶滅宣言が出されている。

こうなっては、環境省は「いない」となる方が楽なのだろう、と邪推するしかなくなる。

ニホンカワウソについては、川だけでなく沿岸でも生息することがあり、
四国南西部の急峻な海岸だと、近づくことも難しい場所がまだまだある。

また、餌を求めてかなり広範囲を移動するようで、
ある場所でいなくなったとしても、それは死に絶えたのではなく、別の場所に移動した可能性が高いようだ。

とすれば、本書で丁寧に掘り起こした1970~80年代の様々な個体の子孫が、
まだ人知れず生き残っている可能性も皆無とは言えない。
(だからこそ、絶滅の判定に最低でも50年という猶予があるのだろう)

安易に絶滅した、ということは、安易な再導入論も容認してしまう。
だが、一度再導入してしまうと、二度と本来の種の生息確認はできなくなる。

ニホンカワウソ、ニホンオオカミが「絶対にいる」とは、もちん言えない。
だが、安易に絶滅宣言を行うことは、誤りである。
まずは、どのような種なのか、土台を固めるところから、再検討が始まることを願う。

category: 哺乳類

thread: 読んだ本の紹介

janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

打ち上がったクジラ類を、無駄にはしない。「クジラのおなかに入ったら (ナツメ社サイエンス)」  

クジラのおなかに入ったら (ナツメ社サイエンス)
松田純佳



クジラなどの海獣類が岸に打ち上げられるストランディング。
島国である日本は、世界的に見ても珍しい種も打ち上げられる地だが、
その調査体制は他の生物種と同様に、貧弱である。
アメリカではストランディングに対応する専門機関がある聴くし、
オーストラリアでは長期間にわたってワニを調査する機関がある。
いわゆる先進国で、ここまで生物種の基礎調査に無頓着なのは日本だけではないだろうか。
ヒトの生死に関わらない、経済活動に直結しない研究を国も国民もないがしろにしがちだが、
世界(特に欧米諸国)と対等に渡り合うには、相応のバックボーンが必要である。
このままだと、日本は基礎研究分野で二流、三流になるだろうし、
ひいては学術分野全般が陳腐化していくだろう。

その中で、著者のような熱意溢れる研究者がいるというのは、
何より心強い。

著者は、北海道大学でクジラを専門に取り組み、
現在はNPO法人ストランディングネットワーク北海道を立ち上げ、その副理事長として邁進している。

本書は、近年多く刊行されているタイプの本で、
著者の大学入学前後から現在に至るまでの、ストランディング調査やクジラ研究の
試行錯誤と努力の軌跡を辿るもの。
特に、表紙にも絵が描かれているが専門はクジラ等の食性であり、胃内容物の解析から
それらを明かしていくもの。
通常は物理的にも読み物としても触れることが無い「胃の中身」を研究する醍醐味が伝わってくる。

また、同時に、様々なストランディング調査におけるエピソードも満載であり、
読み物としても面白い。

類似の書として、「海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること」(レビューはこちら)があるが、
こちらの著者、田島木綿子氏からすると、その次の世代といったところ。
本書の中でも、著者が田島木綿子氏に憧れ、一緒にストランディング調査にあたる場面もあり、
両書を読むことで、日本のストランディング調査の現場を多角的に疑似体験することができるだろう。

また、クジラ等の大型海洋ほ乳類の調査において、女性が活躍しているというのも嬉しい限りであり、
研究に男女の差はなく、誰にでもチャンスがあることを実感させてくれる。

なお、NPO法人ストランディングネットワーク北海道のHPでは、
同会の会誌「humpe yan ストランディングネットワーク北海道会誌」が掲載されており、
PDF媒体で読むことが出来る。
これだけのストランディングが発生しているということも驚きだが、
それをここまで整理し、標本・情報として無駄なく後世に残している活動には、敬服するしかない。
ぜひ、多くの方に知って頂きたい。



category: 哺乳類

thread: 読んだ本の紹介

janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

図鑑は買った。さて次は?「図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?: 生きものの“同定"でつまずく理由を考えてみる」  

図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?: 生きものの“同定"でつまずく理由を考えてみる
須黒 達巳



野鳥観察会を長く開催しているため、
初心者の方に、目の前の個体の種名や識別ポイントを教えることも多い。

そうすると、全部同じに見えますと言われるが、
全くとのとおりである。
僕も最初は、どの種も同じように見えていた。

だが、図鑑を見たり、分かりやすい種に慣れることで、
少しずつ見るべきポイントがわかる。
また、何度も回を重ねることで、見る「ゆとり」ができ、
例えば脚の色など、ポイントを絞ってみることができる。

だが、これが別の分類群になると、なかなか通用しない。
今まで手を出したのは貝、昆虫、植物やキノコだが、
どの分類群でも、図鑑と目の前の種と比べて、学んで、また別のものと比べて…の繰り返しである。

図鑑がないと識別できないのは確かだが、
図鑑があれば識別できるようになる訳では、ない。

では、人は、どのように図鑑を使って識別できるようになっていくのか。

それを、著者自身の実例を示しながら、細かく整理していったのが本書である。
著者の専門はハエトリグモ。
だから、ある分類群については、一般人よりも識別力があり、
種を識別する「同定」について慣れている状況にある。

だが、それが昆虫になると、どうか。
また、別の鳥類やシダ類といった、分類群になると、どうか。

これらの実例をとおして、
図鑑を使って「同定」するという過程の難しさ、そして面白さを伝えていく。

また、そうした経験を踏まえて著者が作った、
ハエトリグモハンドブック」に関する裏話も掲載。

この一冊だけで同定する力がつくものではないが、
「図鑑を買ったけど、どうにも仕えていない」という人にとっては、
どのようなアプローチしていけば良いか、そして楽しいかを示す道しるべになるだろう。
また同時に、自然観察の案内人が読んでおけば、
参加者に対して、同定(識別)について説明するときに、一人よがりな説明になることを避けられるだろう。

「慣れる慣れる」と言うのは簡単だが、
その「慣れる」というのが、「どのようなプロセス、考え方や味方に慣れる」のかを、
案内人は説明していく必要があるだろう。


【目次】
第1章 教本を買っただけではバイオリンは弾けない
第2章 目をつくるとは
第3章 知識ゼロからのシダの同定
第4章 みんなちがって、まちがえる
第5章 図鑑づくりの舞台裏
第6章 果て無き同定の荒野

category: 技術

thread: 読んだ本の紹介

janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

日本に、ドードーがやってきた。「ドードーをめぐる堂々めぐり――正保四年に消えた絶滅鳥を追って」  

ドードーをめぐる堂々めぐり――正保四年に消えた絶滅鳥を追って
川端 裕人



長い生命の歴史の中で、膨大な種が生まれ、絶滅してきた。
ただ、現生人類が存在する間に絶滅した種は、
その絶滅が、ヒトの影響によるものかもしれないという点で、
やはり恐竜など、遥か以前に絶滅した種とは一線を画す。

いわんや、歴史時代においてやである。
ヒトが文明化し、かつ、狩猟時代とは比べ物にならない動植物の利用や環境開発が生じたことにより、
ほぼ確実に、その絶滅はヒトが関与することとなった。
(種として脆弱な状況にあったものもあるが、トドメをさしたのはヒトの影響であるだろう。)

加えて、発見から減少、絶滅に至るまでを、同時並行的に記録できた種は、
さらにシンボリックな意味を持つ。

(写真という記録手段ができて以降だけでも、「写真に残された絶滅動物たち最後の記録」(レビューはこちら)などの本が有る。
また単独の種については、例えば「ポック」こと、グアテマラのオオオビハシカイツブリの絶滅に関する悲しい本が有る。
絶滅した水鳥の湖」(レビューはこちら))

中でもドードーは、野生動物としての面だけでなく、
「不思議の国のアリス」に登場することで、文学的に、またイメージ先行で、
人類が慣れ親しんだ特殊な絶滅種である。

極めて多くの人がその存在を知っているが、
その姿は、実はアリスのイラストによるものだ。

それが真の姿を伝えるものではないし、
実際に、どのような「野鳥」だったのかは、今とになっては霧の彼方である。

歴史を紐解くと、
ドードーは1598年にオランダの艦隊に発見され、あっという間に絶滅した、
地上性の鳥類である。
IUCNが認定した絶滅念は1662年だから、わずか64年しか、ヒトの歴史と接していない。

ドードーは食べるために乱獲され、珍奇な動物として捕獲され、
ヒトが持ち込んだネズミやネコによって消えて行った。

当時はまだダーウィンによる進化論が示される前であり、
そもそも「絶滅」という概念すらなく、いわんや、保護という意識はない。

そのため、ドードーが実際にどのような鳥であったかを示す手掛かりは、
わずかに残っている部分的な骨や、当時のスケッチでしか窺い知れれない。

そのような、遠い幻の鳥として、僕も認識していた。

ところが、本書は近年発見された新たな史料により、生きたドードーが、
実は1647年(正保6年)に、長崎の出島に持ち込まれていた事実を紹介する。

当時のオランダが、将軍への献上物の候補として様々な珍しい動物を持ち込んでおり、
その中にドードーがいたのだ。

本書は、どのようにドードーが持ち込まれ、そしてそのドードーはどこへ消えたのか、
様々な方面を調査しながら負うものだ。

また同時に、ヨーロッパ等に残るドードーの標本も実地に見て、
「アリスのドードー」と比較して、真のドードーは如何なる鳥だったのかを、探っていく。

さらに、モーリシャス島まで行き、ドードーの亜化石が多数発見された地を見たり、
実際に、さらなる骨を探す調査にも同行していく。

そこで浮かび上がるのは、西洋社会においてドードーに対する関心が下がっていた時期に、
実は様々な日本人が、ドードーの研究・調査に大きな影響を与えていた事実だ。

今もなお、ドードーがどのような鳥だったのか不明だし、
出島に来たドードーが、どのような運命を辿ったのかはわからない。
(本書が指摘するとおり、思いがけないところから痕跡が出てくる可能性はある。)

しかし前述のとおり、ドードーと日本は、少なからず「縁」があり、
生きているドードーが渡来した数少ない国の一つなのだ。

これらの著者がドードーをめぐる堂々巡りを続けて行く中で明らかにした様々な「事実」は、
僕らのドードーに対する認識を、これまでとは全く異なるものに引き上げる。

本書は、ドードーに関する様々な先行研究を丁寧に紹介しながら、
今に伝わる標本や図像、モーリシャスの環境やドードーの骨の発掘状況など、
容易に集められるものではない史料を、惜しむことなくカラーで掲載している。

ドードーに関する邦書としては、間違いなく今後必読の一冊となるだろう。




category: 野鳥

thread: 読んだ本の紹介

janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

卵を見つめて、数億年を解き明かす。「恐竜学者は止まらない! : 読み解け、卵化石ミステリー」  

恐竜学者は止まらない! : 読み解け、卵化石ミステリー
卵化石にしかできない謎解きを求めて

田中 康平



化石と言えば骨とか貝だが、それ以外に糞や食痕などの生痕化石もあるのだ-と
ウンチ化石学入門 (インターナショナル新書)」(レビューはこちら)を紹介したが、それ以外にもエキサイティングな化石があった。

卵の化石である。
化石展などがあると欠片が安価で売られていることもあり、
買った覚えはあるのだが、今回探してらなぜか見当たらなかった。むむむ。

今や日本を代表する恐竜学者・小林快次氏に学び、
夢であった恐竜学者(卵化石専門)となった著者によるもの。

著者が恐竜学者になるまでの過程を辿りながら、
博士課程等における卵化石の研究成果を紹介していく。

詳しい内容は本書の愉しみなので省略するが、
恐竜が抱卵していたか否かを、卵の構造から解いていく。
その過程で、過去の定説となった研究の「穴」を発見するなど、
研究の醍醐味ここに在り、という感じである。

また、卵一つ一つの構造もあるが、
巣における卵の配置、また複数の巣の配置などからも、
抱卵していたかどうかなどを探っていける。
骨というダイレクトな生物の証拠ではないだけに、
卵化石から得られる情報は限られている。

だが、現生動物の卵との比較なども行いつつ、
著者は謎に少しずつ迫っていく。

以前であれば、化石の本といえば、
海外の研究者の訳書や、それを引いたものだった。

だが現在、本書のように、日本の研究者が、
自身の手で研究した成果を、ほぼリアルタイムで報告してくれる。
本ブログでも何冊か紹介しているが、いわば黄金期である。
そしてできれば、本書も含めて、数年後に続編を刊行してくれることを望む。

【目次】
第1章 さあ、カナダで恐竜研究を始めよう!
第2章 読み解け、化石からの伝言
第3章 イクメン恐竜は卵を抱いたか?
第4章 中国、恐竜化石ミステリーツアーへようこそ
第5章 ゴビ砂漠の集団営巣のナゾを追え!
第6章 安楽椅子研究のススメ
第7章 恐竜学者は止まらない!
おわりに

category: 恐竜

thread: 読んだ本の紹介

janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

ジャンルランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

▲ Pagetop